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第11案:後編

 経営者が、増江課長の……父親?  アダルトグッズの、販売会社。……増江課長の父親、って……? 「──初耳なんですけどッ!」 「──『増江にとって大切な人』と言っただろう!」 「──それしか言ってないじゃないですか!」  つまり……俺が、勝手に勘違いしたってことか?  井合課長が頑張っていたのは、増江課長が好きだからじゃない。増江課長に──増江家に、恩を売るためだったのだ。  ……なんて。なんて、あくどい人なのだろう……ッ! 幼馴染みだけではなく、家まで巻き込んで恩を売ろうとするなんて……ッ!  そうなると俺は、今までいったいなにをしていたのだろうか……。  勝手に勘違いをして、勝手に怒鳴って嫌な態度を取って……。これではどう見ても、こっちが悪者みたいじゃないか。  肩を掴まれたまま、井合課長が俺を見上げている。その目は、どこまでも不思議そうだ。 「……くっ! 先日は、すみませんでした……っ!」 「なぜそんな苦渋に満ちた顔をして謝罪する?」  ──腑に落ちないからに決まっているだろ。  ……とは言えないので、俺は黙り込む。井合課長は井合課長で、いつもとは別の意味で落ち着きがない。ソワソワと、妙に視線が泳いでいる。  そうだ。まだ、もうひとつ……疑問に思っていることがあった。  井合課長の肩を掴む手に、力を籠める。 「井合課長。……もうひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」 「なっ、なんだよ……っ」  俺の言葉に、井合課長はまたもや顔を赤くした。  ──そんな顔を見て『期待をするな』なんて、無理な話だ。 「──俺は、井合課長が好きです」  振られるとか、玉砕とか、今後の仕事はどうしようとか……。そんなこと、どうだっていい。  ──目の前に居るこの人へ想いを伝えるのなら、今しかないだろう。  見開かれた金色の大きな瞳に、俺が映し出されている。たったそれだけのことが、こんなにも落ち着かない。  いつもは耳障りなくらい煩い井合課長が黙っていると、変な気分だ。状況が状況なだけに、怖い。  もう一度口を開こうと思った矢先、井合課長がやっと、口を開いた。 「──はっ? オイ、今はなんの時間だっ?」 「──はいっ?」  井合課長の瞳が、訝しむように細められる。言葉の意味が分からなくて、俺も同じような表情を浮かべてしまった。 「俺、今……井合課長に告白、しました、よねっ?」 「あぁ、したな。俺様は、されたな」 「普通、返事とか……?」 「『返事』だと?」  要領を得ないといった顔をして、井合課長は腕を組む。けれど、その表情はいつもの笑顔ではないし、強気なものでもない。  ──ほんのりと、赤いのだ。 「──どうでもいい奴のコーヒーの好みなんて、憶えているわけがないだろう……っ」  頬は依然赤いまま、ムッとした表情で俺を見上げて、井合課長は付け足す。 「──それでもお前は、利発な企画開発課の職員か?」  言っていることは、小憎たらしい。……なのに、何故だろう。  ──ウザ可愛くて、仕方ないのは。  だから、思わず俺は……一言、呟いてしまった。 「──すみません。……今日、早退してもいいですか?」 「──はっ?」  頼む。  ……少し、考える時間をくれ。 第11案【報連相は大事ですよね?】 了

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