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最終案【答え合わせは小言の後で】 前編

 昨日。……俺は、井合課長と想いを通じ合えた。  と、思っているのだが……果たして、本当にそうなのか。早退して、色々考え直したけれど……どうにも、実感が湧いてこなかった。  コーヒーの好みを憶えてくれていたけれど、果たしてそれが【井合課長からの好意】とイコールになるのか。明確にそう言われたわけじゃないから、自信が無い。  出勤してすぐに井合課長の席に視線を向けるけれど、まだ出勤していないらしく、誰も座っていなかった。普段通り、俺は自分の席に座る。  ──瞬間。  『バンッ!』と、恒例の【音には驚くけれど、誰が入ってきたかはわざわざ確認しない】扉の開閉音。  けれど、今日の俺はいつもと違う。慌てて振り返ると、そこに居たのは……ヤッパリ、井合課長だ。 「ハーッハッハッハ! よう、クソ童貞共! 今日の俺様は絶好調だぞ!」  元気が余り過ぎているいつもの井合課長に、なんだか拍子抜けしてしまう。  ヤッパリ、昨日のは俺の勘違いか? 普通、好きな相手と両想いになったら……さすがの井合課長でも少しくらい、しおらしくなったりするものじゃないか?  思わず井合課長を眺めていると、目が合った。  ──すると、予想外な単語が耳に飛び込んでくる。 「──怜雄!」  満面の笑みを浮かべて、瞳を輝かせながらそう言い、井合課長が駆け寄ってきた。  目を丸くした俺や他の職員にはお構いなく、井合課長が腕を掴んでくる。 「怜雄、聴いてくれ! 増江が凄く怒っていてな? さっき廊下で、今すぐ怜雄も連れて来いと──」 「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」  腕を引っ張られたから立ち上がるけれど、歩き出せない。  なぜなら、井合課長の口から飛び出た【呼称】がおかしいからだ。 「今、俺の名前……っ?」 「ん? お前の名前は怜雄だろう? なにを硬くなっている? 童貞は下の名前を呼ばれるだけで勃起するのか?」 「いや、しないですけど……っ」  グイグイと腕を引く井合課長を見下ろす。困惑している俺を見上げて、井合課長が眩い笑みを浮かべた。 「そうか! 俺様は童貞処女だからな、下の名前で呼ばれたら勃起し、濡れるかもしれんぞ!」  ──可愛い顔で、なにを言っているのだろう。  俺を含めた職員全員がきっと、同じことを思ったはずだ。

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