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回想3
高校1年。
入学した高校にはファンクラブが存在した。
イケメン
カッコいい
美形
この学校に来てよかったと興奮気味に飛び交う会話が聞こえるたびに、私は苦笑した。
それもそのはず、皆がキャーキャー言っていたのは自分の兄だ。
人間離れした美しさ…という表現が聞こえた時には、『吸血鬼だからね』と内心ツッコミを入れずにはいられなかった。
名前までカッコいいと、うっとりと話すクラスの女のコ達。
すれ違ったらいい匂いがしたと、何故か顔を赤くする男の子達。
いつかはバレると分かってても、何となく『妹です』とは言えず入学から一ヶ月が過ぎていた。
だって想像以上の人気ぶりだったから。
別に他人のふりをするつもりは無いけれど、妹だとバレたらそれはそれで面倒くさい…と感じていた。
けれどその日は思っていたよりも早くやってきた。
「秋山那緒いる?」
「「きゃ!」」
「え?」
名前を呼ばれ振り向けば、そこには教室の中を伺う蒼牙が立っていて…入り口付近にいた女のコ達がアタフタしていた。
「あ、いた」と躊躇いなく教室に蒼牙が入ってきた途端に、それまでガヤガヤと煩かった教室が静まり返った。
ふと見ると、廊下から覗き込んでくる生徒の姿もある。
「蒼牙…どうしたの?」
「これ間違えて買ったから、ナオにあげる。好きでしょ?」
そう言って机にトン…と置かれた苺ミルクジュース。
それと蒼牙を交互に見やる。
「ありがと。えっと、用ってこれ?」
わざわざ1年の教室がある第二校舎まで足を運び現れた兄。
その用件がこれだけなのかと、不思議に思った。
「うん。それと…」
言いながら前の席の椅子を引き、そこに腰掛けると頬杖をついてこちらを見つめてくる。
「何でいつも先に出るの?一緒に来ようよ。」
少し不満そうな蒼牙にため息が出た。
「だって、蒼牙やっと起きてきたと思っても全然動かないんだもの。遅刻したくない。」
「んー…朝は眠くて動けないよね。でもギリ遅刻はしてないよ?」
「『ギリ』ね。蒼牙の歩く速さに、私がついて行けないって」
そう笑いながら伝えれば、「そっかぁ」と少し考える素振り。
「じゃあ明日から頑張って起きる。あと、今日は一緒に帰ろ?」
「どうして?」
「俺傘忘れた。入れて?」
窓の外を指差しながら言うのに、あぁ…と思う。
外は雨。
止みそうにないその様子に「仕方ないなぁ」と苦笑すれば、微笑みながら頭を撫でられた。
「ありがと。じゃ、また後で。」
ヒラヒラと手を振って教室を去っていく蒼牙に私も笑顔で手を振り返し、大きく溜め息を吐いた。
蒼牙は気にしてなかったみたいだけど、周りの視線が私には痛い。
案の定、蒼牙が出ていった途端に出来た人だかりに頭が痛くなった。
けれどそこからの高校生活は楽しかった。
『頑張って起きる』その言葉の通り。
次の日から蒼牙は私が出る時間には起きてきて、一緒に登校するようになった。
登校中ずっと欠伸をしていたけど、その姿すら何故か人気になっていた。
蒼牙といれば自然と3年の先輩とも仲良くなり、色々と教えてもらうことができたのも有り難かった。
文化祭や体育祭みたいなイベントでは蒼牙が持て囃されるのを見て大笑いしたり、意外と成績が良い兄に友達と一緒にテスト勉強を教わったりもした。
そうやって、一緒にいて一つわかったこと。
蒼牙はとにかく、女の子の扱いが下手くそだった。
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