12 / 21
回想4
「これ良かったら食べてください!」
まるで漫画のように手渡される、調理実習で作られたお菓子…の山。
調理実習のみならず、家で作りました…と差し入れられる物もある。
個人で、或いはグループで蒼牙に手渡す女の子達。
蒼牙に直接手渡す勇気がない子は、私のところに持ってくることもあった。
それは蒼牙に彼女がいても気にされることなく続いていて、いっそもうそれが当たり前の光景になっていた。
「秋山ばっかりずりぃ…!」
「ほんと、相変わらずすごいな…」
学校帰りのカラオケ。
蒼牙と仲の良い、いつものメンバーの中にいつしか私も誘われるようになった。
不貞腐れたり感心したりする先輩たちの側で、蒼牙は困ったように笑っていた。
「でも量がね…」
両手に持ちきれず紙袋に入れられたお菓子の山に、ハァ…とため息すらもれていた。
「で、それは誰からもらったの?」
「知らないお姉さん…さっき道端で手渡された」
「うぇ…それはちょっと怖いな。」
「ハハハ…ちょっとアレだよね…」
そう言ってバサリと机の上に置かれたのは、バラとガーベラが美しい花束。
「断っても良いんだよ?蒼牙」
適当にあしらったり、キツく断ったり…そういうことが出来ない性分なのだろう。
蒼牙はとにかく女の子の扱いが下手くそだった。
優しいと言えば聞こえは良いが、八方美人というか、優柔不断というか…
まさか歩いていて花束まで渡されるとは思わず、流石にそう伝えると「そうなんだけどね…」と困ったように続ける。
「丁寧に断っても押し付けられちゃうんだよね…捨てるわけにも行かないし。一つ受け取ると、こう…次々とくる。」
「くっそ羨ましい!」
「でも花束は怖い!!」
「えぇぇ…とりあえず、皆で食べて?」
嘆く友人達に、貰った手作りお菓子の消費を頼む蒼牙に呆れてしまう。
「ナオちゃん、可哀想なオレらに何か手作りの物を…なんならデートでも良いよ?」
「え?」
お菓子を紙袋から取り出し机の上に並べていると、急に横から伸びてきた手が私の両手を握る。
そのままグイッと近づいてくるのに、思わず体を引いてしまった。
「えっと、お菓子作りは得意じゃなくて」
「じゃあデートしよう。むしろそっちをお願いし」
「はーい、そこまで。ナオを誘いたかったら俺を通してください。あと気安く触らなーい。」
そう言って蒼牙が友達の手を叩き落とし、間に割って入る。
蒼牙の背中に匿われ少しホッとしていれば、泣き真似をする先輩たち。
「お前、そうやっていつも俺達とナオちゃんの邪魔して!ずりぃぞ、彼女いるくせにナオちゃんまで独り占めとか。」
「そーだそーだ!」
「なんとでも。ナオは大切な妹なので、簡単には渡しません。」
「あははは…」
蒼牙も先輩たちも本気なんだか冗談なんだかよく分からないんだよね。
とりあえずそっとしておこうと乾いた笑いをこぼし、残りのお菓子を出す。
「ん?」
紙袋の奥から一つ、可愛くラッピングされたクッキー。
机に並べたお菓子の数々とは明らかに違うそれに、蒼牙を見た。
ともだちにシェアしよう!