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回想5

「蒼牙、これは?」 「ん?あぁ、それは」 「彼女からだろ、絶対!!」 蒼牙の言葉を遮って、先輩の一人が蒼牙の肩を押す。 「良いよなぁ、可愛い彼女。」 「そうなの?」 「うん」 彼女からの差し入れのクッキー。 手作りだと一目で分かる、けれども丁寧にラッピングされた可愛らしいクッキーを蒼牙が手にする。 「昼休みに貰ってから、しまっちゃってた。」 そう苦笑する蒼牙に先輩が軽くパンチを入れる。 「忘れんな!そしてもっと喜べ!」 「ちゃんと喜んでるって。」 笑いながらもどこか淡々と答える様子に首を傾げた。 なんだろう、何か変。 もっとこう…彼女からの差し入れなら嬉しそうにしない? そんな思いが沸き起こる。 「彼女、お菓子作り上手だね。美味しそう。」 感じたものがなんなのかよく分からず誤魔化すように呟くと、蒼牙が振り向いた。 「だね。じゃあ、ナオにあげる。」 「え、どうして?これは蒼牙が彼女から貰った物でしょ?」 眼の前に差し出されたクッキーを手の平で押し返せば、蒼牙がラッピングを解き始める。 「うん。だから一緒に食べよう。」 そう言って一口クッキーを頬張ると私にも手渡してくる兄に、やはり違和感を持った。 「知ってる?ナオちゃん。秋山ってさバカほどモテて彼女もすぐできるけどさ、いつも振られてんだよね。」 「それな。告白してくるのも別れ話も女の方からってね。」 「え…そうなんですか?」 カラオケに入って一時間。 飲み物を取りに蒼牙が席を外したところで、先輩達がコソッと教えてくれる。 「そーそー。オレらも不思議なんだけど、蒼牙ってなぜか振られるんだよなぁ。」 「あいつ、遊び人じゃないし、自分のこと鼻に掛けない良いやつなのに…何でだろうな?」 「なー。案外アホで面白いのにな。」 「今の彼女って何人目だっけ?5人目?」 「4人目だよ」 「4人か…って、秋山戻ってた!」 いつの間にか部屋に戻っていた蒼牙が、呆れたように笑う。 「人がいない間に何話してるかな。傷口抉らないでください。」 「わりぃわりぃ。」 ケラケラと笑う先輩達を尻目に、蒼牙が私の隣に座る。 「ほんとに、今まで全員に振られたの?」 「ナオまで兄ちゃんを苛めないで。泣くよ?」 そう言う表情は普通に優しくて。 …ああ、なんかちょっと分かったかも。 「まぁでも、振られてもすぐに別の女の子が告って来るからなぁ、秋山の場合。」 「彼女が出来ない男の悲しみなんて分かんないよな…だからナオちゃんとオレらの邪魔するんだ。」 「いや、それとこれとは別。」 再び泣き真似を始める先輩達を見て笑う蒼牙の袖を引っ張る。 「蒼牙」 「ん、何?」 「彼女からクッキー貰ったとき、どう思った?」 「え?なに、急に。」 急な私の質問にキョトンとした表情を見せると、机の上にある空になったクッキーの袋に視線を移す。 そうして少し考えると蒼牙は口を開いた。 「『ありがとう』って思ったよ。他の女の子達もだけど、わざわざ作るって大変だろうし。」 「うん、そっか。」 何となく予想していた答えに、やっぱり…と思う。 蒼牙は女の子に対してとても優しいけど。 その他大勢の子も、 付き合っている彼女も、 蒼牙にとっては多分同じ。 そこに『特別』を見出していない。 だから手作りのお菓子を彼女から貰っても『ありがとう』と感謝はしても、それを『嬉しい』とは感じていないんだ。 それはその他大勢の女の子達がお菓子をくれた時と同じ感情。 きっと振られたことも、『悲しい』と感じてないんだろう。 けして彼女のことを邪険にするわけではないし、蒼牙なりに大切にしているのだろうけど。 だけど…彼女達は蒼牙のことを好きだからこそ、気付いたんじゃないかな。 蒼牙が自分のことを『好き』だと、『特別』だと感じていないことに。 そのどうしようもない温度差に、耐えられなかったんじゃないかな… 「ナオ?」 名前を呼ばれハッとする。 顔を上げれば蒼牙が心配そうに覗き込んできて「大丈夫?」と聞いてくる。 「具合悪いなら帰ろう?」 「ううん大丈夫。ごめん、ちょっと考え事してた。」 フフッと笑えば、安心したように微笑む。 「ナオちゃん、俺が家まで送ってあげ」 「はい、アウトー。ナオは渡しません。」 蒼牙と先輩達の楽しそうな様子。 そのやり取りに声を出して笑ってしまう。 いつか いつか、蒼牙にもかけがえのない人が出来たら良いな。 蒼牙だけの『特別』な人が。 そう願わずにはいられなかった。

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