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帰国5
Side蒼牙
「先程はどうもお見苦しい所をお見せしてしまって…」
「ほんとね。悠に会うのも久しぶりだったから、ちょっと興奮しちゃったわね。」
「とんでもないです。明るいご両親で安心しました。」
料理が運ばれ、雑談を交えながら和やかな時間が流れる。
照れくさそうに笑うご両親はどこか可愛らしく、自己紹介中ずっと緊張していた心が解けていくのが分かる。
「二人とも、そんなに落ち着きがなくてよく海外でやっていけるね。」
ご両親の隣で面白くなさそうに黙々と料理を口に運んでいた朔弥さんがボソッと呟けば、お母さんが口を尖らせた。
「朔弥は相変わらず厳しいわ。昔から悠には甘えるのに、私達にはこうなのよ?」
「兄さんは落ち着いてるからね。母さん達と一緒にしないで。」
「パパも落ち着いてる人じゃない。」
「襖に小指ぶつける人が?」
「…面目ない」
「朔弥、あんまりイジメない。父さんもしょげてないで顔上げて。ほら、ビール。」
クスクス笑いながらお父さんのグラスにビールを注ぐ悠さんは、ずっと優しい顔をしている。
嵐のような登場をしたご両親は、俺が想像していた『悠さんのご両親像』とかなり違っていた。
何となく…こう、もっとキリッとしたインテリなご両親を想像していたな…
自分が抱いていたのは、『海外で共働き』ということから勝手に作り上げていたイメージだったのだと気付かされた。
少しふっくらとした小柄なお母さんは品が良く、コロコロと変わる表情がとても印象的だ。あのおじいちゃんとおばあちゃんの娘…という悠さんの言葉通り、親しみやすい雰囲気にその場が和む。
隣で静かにグラスを傾けるお父さんは背が高く、穏やかな低い声が心地よい。
男らしい顔立ちなのにどこかうっかりしていて、それがギャップで肩の力が抜けた。
料理が運ばれる度に「まぁ、美味しそうね」と顔を輝かせるお母さんと、「沙夜さん、こちらも美味しいよ」と、穏やかに勧めるその仲睦まじい様子には覚えがあった。
「…思い出した。」
ポロッと溢れた言葉に、ご両親だけでなく隣にいた悠さんも「え?」と視線を向けてくる。
「お父さん、お母さんがお店に来てくださった時のこと…やっと思い出しました。」
そう言って悠さんを見つめれば、「そうか」と嬉しそうに微笑んでくれる。
ご両親の前で無ければ絶対唇を奪っていたに違いない綺麗な微笑みに、心臓が跳ねた。
「悠、なんだか嬉しそうね。」
「そうかな?」
「そうだね、嬉しそうだ。」
そう言ってお母さんも、お父さんも微笑む。
朔弥さんだけは難しい顔をしていたけど、今この場に流れている空気は間違いなく穏やかで幸せなものだった。
「それで?」
その空気を破ったのは、頬杖をついた朔弥さんの声だった。
「なんで秋山くんの職場に行ったの?俺までお使いに出してさ」
「なぜって、悠の選んだ子がどんな子か知りたいからだよ。」
「今日会うのに?」
お父さんが答えると、朔弥さんが怪訝な表情を見せた。
朔弥さんが疑問に思っていたことは俺自身も感じていたことで、もしかしたら何かテストされたのかもしれない…と深読みもしている。
だから余計、緊張していたのだけど…
「どうせ母さんとじいちゃんだろ?」
隣からため息混じりの呆れたような声が響いた。
自身のネクタイを緩めながら悠さんがお母さんに向き合う。
「悠は勘が鋭いんだから。誰に似たのかしら?」
お母さんがいたずらっ子のように笑う。
その顔は、俺もよく知っているおじいちゃんの表情とよく似ていた。
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