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帰国6

Side 沙夜 「お父さん、悠の恋人に会ったの?」 帰国したことを報告する為に実家に電話をすると、思いがけない返しをされた。 『会った会った。わしの家までホタル見に来たしのう…わしらもそうくんの店に行ったわい。』 電話の向こうで『羨ましかろう?』とカラカラと笑うお父さんに負けた気持ちになる。 「ずるいわ、私達はまだ顔も知らないのに。」 正直に伝えれば、ますます愉快そうな笑い声が響いた。 『驚くぞ。腰を抜かしそうな美形じゃから。』 「そんなに?」 『そんなにじゃ。ばあさんもデレデレじゃぞ。』 「お母さんまで…あの子、そんなに面食いだったかしら?」 腰を抜かすほどの美形、という言葉に首を傾げる。 悠は小さい頃から弟の面倒見も良く我儘を言わない子で、母親である自分よりもしっかりしていた。 田舎に遊びに連れて行けば子供らしく甘えることはあっても、親戚が集まると聞き分けの良い子供に戻ってしまっていた。 それは大人になっても変わらず、いつか甘えられる相手と結ばれて欲しい…と私もパパも願っていたのだけれど。 「まさか、顔だけで選んだりしてないわよね?」 僅かな不安を込めて聞けば、ますます可笑しそうに笑われた。 『ないない。そりゃもう、こっちが恥ずかしくなるくらいのラブラブっぷりじゃわい。』 「ラブラブ?悠が?」 『そうじゃ。ありゃあ、ほんまに優しゅうてええ男じゃ。はるくんもメロメロじゃから安心せぇ。』 ラブラブでメロメロ… あまりにも悠のイメージと違っていて、お父さんの話に疑問符が浮かんだ。 それでも、これほどお父さんが言っている訳だし…悠の人を見る目を疑っている訳でもない。 何より今度の食事会で会えば、お父さんの言葉が真実か分かる。 それよりも… 『お前も今度そうくんに会うんじゃろ。その時に腰抜かすなよ?』 「抜かさないわよ。」 『そうかのぅ…まぁ、わしやばあさんはもう会ったからの。一緒に風呂まで入った仲じゃ。』 絶対にニヤニヤしながら言っていることが伝わってきて、先を越された悔しさがふつふつと沸き起こる。 可愛い大切な息子。 その恋人との面会を、母親である自分よりも先にお父さん達が済ませている。 その事実が純粋に羨ましかった。 「お父さん、そのお店教えて。」 『お、行くんか?』 「行くわよ。お父さん達ばかりズルいもの。」 そう言えば、また大きな笑い声が電話口の向こうで響いた。

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