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帰国8

「あの時のご夫婦、お父さんとお母さんだったんですね。」 向かいに座るご両親に微笑めば、悠さんのため息が聞こえた。 「つまり…母さんはじいちゃんに焚き付けられて負けじと蒼牙に会いに行って、父さんはそこでコップをひっくり返して帰ってきたと。」 呆れ声で纏められ、お母さんが口を尖らせる。 「だってお父さんったらすごく得意げに話すのよ?『わしらはそうくんに会った』って。あんなに言われたら私だって蒼牙くんに会ってみたいし、働いてるところ見てみたいじゃない。だからパパにお願いしたの。ね?」 お母さんがお父さんに視線を移すと、お父さんは静かに頷いた。 「だからって、手紙渡す必要ある?」 朔弥さんも呆れたようにため息を吐く。 「それはパパが『蒼牙くんが緊張しないように』って言うから。もう会ってるって分かってれば、緊張も和らぐでしょ?」 「いや、逆に色々考え込んでたからな、こいつ。」 悠さんの言葉につい苦笑してしまう。 実際、思い出せなくて歯痒いのと同じくらい、何か試されたのでは…と不安も感じていた。 結局、全くの杞憂だった訳だけど。 「そうか…それは申し訳ないことをしたね。」 お父さんが落ち着いた声で謝罪の言葉を口にするのを、慌てて否定する。 「とんでもないです!驚きはしましたが、お二人が会いに来て下さったことは嬉しいですから。それにおじいちゃんが話してくれたことも、気遣ってくれたのかなって。」 そう告げれば、悠さんか隣で笑う。 「いや、じいちゃんは純粋に自慢したかっただけだと思うけどな。」 「まぁ、あの人らしいよね」 朔弥さんが悠さんのコップにビールを注ぎながら同意する。 それにお礼を言って、悠さんも朔弥さんのお猪口に日本酒を注いだ。 兄弟でお酒を酌み交わすその姿が新鮮でもあり、少し羨ましくもある。 「そうよ。あの嬉しそうな声…あんなに自慢されたら悔しいじゃない、私達の新しい息子なのに。」 「「ゴフッ…!ゴホッ!!」」 お母さんの言葉に悠さんはビールを、朔弥さんは日本酒を吹いた。   「悠、朔弥、行儀悪いぞ。あ…、」 「「父さんに言われたくない」」 注意したお父さんが口に運んでいた茶碗蒸しをスプーンから落とし、それを口を拭いながら突っ込む悠さんと朔弥さん。 「蒼牙くんの前でパパも少し緊張してるのよね?」 あらあら…と、おしぼりでお父さんの膝を拭くお母さん。 …すごく面白い。 息ぴったりな悠さんと朔弥さんも、真顔でおっちょこちょいなお父さんも、それをニコニコとフォローするお母さんも。 これが悠さんの家族なのだと、とても和やかな気持ちで見つめた。

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