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第4話 目覚めると

 疲労困憊とはこの事なのだろうか。  食べて寝ていたらすぐに治っていた身体は、いつの間にかこんなにも脆くなっていた。  いや、自分が思っていたよりも疲れていたのかもしれない。  日頃使わない脳を使い、神経もやられていたに違いない。  でも、何故だろうか……左足に今まで感じた事が無い違和感がある。 「ん……」 「鉄平……? 鉄平!?」  目を覚ますと見覚えのない白い天井が視界に入った。そして、心配した母親の顔がスッと薄っすらと映る。 「……かあさん?」  鉄平は自分の声に驚いた。  自分が思って出した声量よりも、全く声が出ていなかったのだ。 「鉄平!? よかった! あー、本当によかった! い、今先生を呼ぶから! 寝ちゃダメよッ! ね、そのままでいて!」  そう言って慌てて病室を出た母親を目で追って、鉄平は、自分が余程窮地に陥っていたのだと知る。  腕には点滴。頭に違和感があるのはきっと包帯を巻いているからだろう。  そして、左足には……左足? 「グッ、ウガッ」  突然の痛みが鉄平の左足首を襲った。その痛みに鉄平は悶える。  最初は分からなかったが、左足は完全に固定され、包帯でぐるぐるに巻かれていたのだった。  それを見て意識してしまったからか、痛みが急に込み上げて来た。 「イテェ……クソッ、なんだよこれッ! 嘘だろ!」  その痛みは尋常じゃなくて、鉄平はベッドの上で悶え続ける。 「鉄平さんッ!」  痛みに薄れ行く意識の中で、新壱の声がした。 「鉄平さん! 鉄平さんっ!」 「……っいち?」  これは本物の新壱だろうか。  なんだかいつもと雰囲気が違う気がする。  なんだよその綺麗にワックスでセットされた頭は。高級そうなスーツは……。 「お……れ……」  でも、その瞳は何も変わらない。間違い無く新壱の物だった。 「もう……死ぬかも……」 「鉄平さん!? 鉄平さん、鉄平さんッ!」  鉄平は新壱の声を聞きながら、掠れ行く意識の中でそう力なく言った。  もう一度目を覚めると、母親が一人病室にいた。それを見て、やっぱりさっきの新壱は夢だったのだと気付く。  けれど、足の怪我は夢では無かった。 ーーーこれが夢ならよかったのに……。  左足はさっきよりもしっかりと固定されていて、動いたとしてもそこだけは絶対に動かないようにされていた。  それを見て、鉄平は自分の選手生命はここで終わったと悟った。

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