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第15話 正直な気持ち

 マルサンカクホテルはこの街の中で一、二を争うくらいの最高級ホテルだった。  鉄平は中に入った事は無かったが、場所はハッキリと覚えていた。 「ハァ……く……ハァッ……」  鉄平は左足を引き摺ってホテルの近くまで向かい、ようやく辿り着いた。 「父さん! 離して下さいッ! 俺は今から大事な用があるんです!」 「何を言ってる! 桜庭さんを待たせるつもりか! こんなチャンスは無いんだぞ! 婚約者を大事にしなくてどうする!」 「俺は結婚なんかしません! もう、あなたの言いなりになるつもりは無いです! 諦めて下さい!」  そう言って、新壱は掴まれた腕を払い除けていた。 「お前ぇ!」  それが相手を更に激昂させ、ヒュッと男が新壱の事を思い切り叩こうとするのが見えた。  それを見て、鉄平は足の痛みを堪えて両手を広げ、その平手から新壱を守ろうと身体を抱き締め、その痛みを自身の背中で受け止めた。 「うっ……」 「鉄平さん!」  涙を溜めた新壱は、鉄平の姿を見てツーッと一雫涙を流し、そのまま盛大に泣き出していた。 「おれっ……俺ぇ……」 「新壱……」  鉄平はそんな新壱の姿を見て未だに鉄平の事を強く想ってくれていたんだと痛感し、その震えた身体を強く抱き締め、ごめん、と謝った。 「なんだ君は!」  男はそんな二人を見て更に怒りを激昂させ、鉄平の肩を強く鷲掴んだ。  鉄平はすくっと立ち上がり、新壱の身体を後ろに隠す。  男をよく見ると見た事があった。確か、会社の社長。いや、前社長だ。  つまりは新壱の父親だ。 「君が息子を誑かした男か! 息子を返せ!」 「返しません!」  鉄平は新壱の手を掴み、そう言い放つ。その言葉を聞き、新壱の父親の後方からスレンダーな女性と紳士的な男がこっちへと来て、どうしたのかと聞いて来る。 「父さん、俺は結婚なんかできません。会社も継げません。俺は……俺はこの人が好きなんです!」 「なっ! 私に諦めると言っただろ!」 「それは父さんがそうしないと鉄平さんを辞めさせるって言ったからです! それをさせない為に、僕はあなたの代わりに会社を継ごうと思ったんです! でも、それももうしなくていい……俺は鉄平さんの近くにいれればそれでいいって、ようやく分かったんです!」  会社で一緒に働き、時々会えればそれでいい。でも、鉄平が会社を辞めるとなれば話しは変わる。会えなくなる。 「俺には無理です。あなたみたいな強引で、ワンマンなやり方を引き継ぐ事なんかできない。あなたにとっては何でも言う事を聞く息子が継げばそれでいいと思っているんでしょうが、俺にはそれはできません! 婚約だってしません!」  そう言って、新壱は鉄平の前に出て父親を見詰め、俺はあなたに屈しないーーーそんな思いが込めらた言葉を父親にぶつけていた。 「お前……」 「俺の事は死んだと思って下さい……会社はあなたが愛でている愛人の息子にでも継がせればいい。さよなら」  新壱はそう言うと、鉄平の手を掴みその場を離れて行った。  その手は汗ばみ、震えていた。

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