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第16話 久しぶりの心音
「足、大丈夫ですか?」
「あぁ……大丈夫だ」
新壱と共に入ったのはラブホテルだった。そこしか今はゆっくりと話せる場所が見付からなかったのだ。
鉄平はベッドの上に座り、緊張している新壱を手招いて隣に座らせその身体を久しぶりに抱き締める。
すると、久しぶりの新壱の温もりに何故だろうか、泣きそうになる。
それに、心音が伝わる度に離したくなくなる。
「新壱……俺が悪かった」
「え……?」
そして、そう強く抱き締めながら鉄平は告げた。
「全部誤解してた……」
「っ……」
「俺の為に色々してくれてたんだな……会社を継いだのも、人事部に移動してくれたのも……俺の為だったんだな……」
「っ……そうです」
「なのに、俺はお前に酷い事しか言わなかった。謝っても許して貰えないくらい酷い事を言った」
だから、新壱が許してくれるまで鉄平は絶対にこの身体を離さないと決めた。
離してくれた言われても、絶対に離さないと決めた。
「ごめん……」
「……嫌です」
「新壱……」
「謝ってばかりなんて嫌ですっ。俺は、あなたのごめん、なんて言葉聞きたくないっ」
そう言って、新壱は泣き出した。
「俺はあなたが好きな物を……続けれたらそれで幸せだった……。好きな事をしてるあなたが好きだったから……っ」
でも、それを父親の一声で終わってしまう。それが嫌で、新壱は父親の昔からの要求を呑む事にしたと話す。
「でも、鉄平さんの側に……隣にいれないなら……俺は何の為に生きてるのかさえ分からなくなりました……。昔の自分に戻った気がして辛かった……」
鉄平に惹かれた理由は、ただ、仕事をしている姿が眩しくて生き生きしててカッコよかった。好きな事をしている姿も素敵だった。
そんな鉄平を見て、会社を好きになって行く自分の変化に嬉しく感じた。
「俺、会社なんて……父親なんてずっと嫌いだったんです。でも、鉄平さんの為なら我慢できるってそう思ってたんです。でも、鉄平さんが会社からいなくなるなら、会う事が無くなるなら……俺は何の為にここを継いだんだろうって思うと苦しくて……っ」
「新壱……」
「忘れるなんて……無理だった……」
「し、うわっ!?」
突然、新壱が鉄平の身体に体重をかけて来た。その押しに鉄平の身体が仰向けにベッドに沈む。
「鉄平さん以外なんて俺には無理です……。鉄平さんの為にって思って頑張ったけど……っ、俺は鉄平さんの近くにいないと……死んじゃいます……」
「新壱……」
「愛してますっ、愛して下さいっ、鉄平さんっ」
そう言って、新壱は泣きながら鉄平の胸に顔を寄せた。
その身体は緊張からか震えていて、鉄平が身体に触れるとビクッと動いた。
「優しく抱けないのは許して……」
そう耳元で鉄平が囁くと、新壱は照れながらこっちを向いて、うん、と頷き恥ずかしそうに笑った
その顔を見て、鉄平は優しくキスをした。
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