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第8話 新部署
「これが資料で、仕事の流れはこんな感じで……」
「はい」
「あと、聞きたい事とか……ある?」
「今の所は無いです」
「あ、そう……」
人事部の部長は営業部の部長とは違い、大人しくて声が小さかった。
「営業とは勝手が違うと思うけど、君ならやれると思うから頑張って……みんなも手伝ってあげてね」
でも、優しくはあった。
「すみません。よろしくお願いします!」
「……はい」
部署の雰囲気は営業部とは全く違い、大人しめで、声がでかい鉄平だけが浮いていた。
営業部は勢いや明るさが無いとやってはいけない所だが、ここではそれは必要は無いようで、皆、与えられた仕事を個人でコツコツとやるようなシステムだった。
鉄平には少し苦手な空間でもある。
「この上の階は社長室や重役達の会議室があるから、エレベーターに乗る時は気を付けてね」
「え……?」
「あっちが乗ってたら次のに乗ってねって事。息子の代になって若くなったからと言っても社長は社長なんだから、優先するのはあっち」
「あ、そうっすよね……」
息子。そう聞いて、鉄平は新壱がここの会社の息子だって事を思い出す。
父親はどっかの社長とは言っていたが、まさかここの社長だったとは……自分は知らずに恐れ多い事をしていたのかもしれないとつい最近思うようになってしまった。
「はぁー……このままお終いってか……」
社長と社員。天と地の差がある。関わりだって無いに等しい。
それに、今は連絡を取れない状況だから、一方的に切られたような物。
ーーー振られたのか……俺。
そう思うと目頭が熱くなる。
初めて知る事。やる事。言われる事。それができなくなる。
せっかく会社に残れたのなら、一所懸命仕事をして貢献したい。
「俺、ここ好きなんだよな……」
最終的にはそう思ってしまう。
けれど、それは新壱が近くにいたからだと、数日経って、鉄平は気付いた……。
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