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第3話

「舌を噛んだ…? それだけ…?」 呆気に取られるサムに重々しく頷くカスティエル。 「そう。 私はしまったと思って天使のパワーで即座にディーンの傷を癒した。 そしてキスを続けようとしたら、ディーンは顔を背けて、もう止めろと怒鳴ってそれから口を利いてくれない」 「深く噛んじゃったの…?」 「いや甘噛み程度だ。 でもディーンが痛い思いをするのは絶対に嫌だから、天使のパワーを使った。 それから少しして君が帰って来たんだ」 「…う~ん…」 今度は違う意味で頭を抱えるサム。 「じゃあ何で兄貴は怒ってるんだ…? 甘噛みなんて舌を絡めていればいつでもありえる事だし…。 それをキャスがわざわざ天使のパワーで治してくれたなら、怒る理由が無いよ」 「……いつでもありえる事なのか?」 「え?」 サムとカスティエルの目がバチッと合う。 「舌を絡めていればいつでもありえる事だと今言った」 カスティエルの言葉に、サムがぼぼぼっと赤くなる。 「そ、そうだね。 一般論だよ!一般論! まあその話は置いといて、重要なのは何で兄貴が怒っているか、だ」 「分からない」 「…う~ん…」 その時、ガチャと音がして小屋のドアが開いた。 サムの身体がビクッと揺れる。 ディーンは素っ気なく「まだいたのかよ」と言ってテレビの前に行く。 「えっ!?出掛ける予定あったっけ!?」 あわあわしながら訊くサムを一瞥もせず、ディーンが「お前じゃねえ」とボソリと言った。 「じゃあ私のことだな」 カスティエルが立ち上がる。 「そーだよ。 今は勘が冴えてるみたいだな。 言っとくけどこっち来んなよ」 「ディーン。 何を怒っているのか教えて欲しい」 「別に」 「それならどうしてそんな話し方をするんだ?」 「いちいちうるせえ!」 サムはというと、ディーンとカスティエルが痴話喧嘩としか言えない会話をしているうちに、素早くメールを打っていた。 『ガース、僕に今すぐメールしてくれ! 僕に直接話したいから町のバーで会おうって! ディーンには別件で小屋まで訪ねて行く新米ハンターがいるから、相手をしてやってくれって! 頼んだよ!』 「ふう…送信っと…」 サムの周囲で「教えてくれ」「うるせえ」の聞きたくも無い痴話喧嘩な会話が続く中、メールを送ってから1分もしないうちにサムのスマホがメールの着信音を鳴らす。 ガース早っ!とサムが驚いていると、痴話喧嘩な会話もピタッと止まった。 「どうした?」 ディーンがサムに向かって振り返る。 「ガースからメールだ。 僕とディーンに頼みごとがあるみたい。 えーと…僕には直接会って話したいから町のバーで待ち合わせしようって。 ディーンには別件で新米ハンターが小屋まで訪ねて行くから会ってやって欲しい、できれば小屋で道具を色々見せて質問に答えてやって欲しいって。 ディーンのファンらしいよ」 「見せてみろ」 ガバッとサムの手からスマホを奪うディーン。 「…ふ~ん。 新米ハンターね。 ま、いいさ。 OKってガースに返信しといてくれ。 俺、シャワー浴びてくる」 「分かった。 じゃあ返信したら僕は出かけるから」 「おう」 ディーンが浴室に行き、サムがホッとして『とりあえずありがとう!後で説明するから!それと僕から連絡があるまで、ディーンからの電話もメールも無視しといて』とガースにメールを送信すると、視線を感じた。 カスティエルだ。 「誰か来るのか?」 「シーッ!キャスこっち来て」 サムがカスティエルを玄関の扉付近までいざなう。 「まずこれ見て」 サムはさっき最初にガースに送信したメールを見せ、次にガースからの返信、そして最後にサムが送信したメールを見せた。 「これは…もしかして私とディーンを二人きりにしてくれる為の行動か?」 「そうだよ、キャス! 今夜兄貴と二人で話してさ、甘噛みくらいで何で怒ったのか理由を訊いて、心を込めて謝れば許してくれるよ。 兄貴は情に脆いからきっと上手くいく」 「……サム。ありがとう」 「いいんだ。 僕も一晩中、痴話喧嘩を聞かされたら精神が崩壊するかもしれないし。 今夜、僕は帰って来ないから。 話し合いは焦らすじっくりとね。 じゃあ僕は行くから」 無表情のカスティエルの顔が、ほんの少し嬉しそうに変わる。 「サム、本当にありがとう。 お礼にディーンと仲直り出来るまでの経過を知らせる。 サムも知りたいだろう?」 「…へ?あ、まあ…」 後で説明でもしてくれるのかな?と考えていたサムは曖昧な返事になってしまった。 これが不幸の始まりとも知らずに。 そしてカスティエルの人差し指と中指がサムの額に触れた。

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