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第11話
クラウリーが上手く言い訳をしてくれたらしく、インパラの助手席にポツンと座っているカスティエルにディーンとサムは「お待たせ~!」と笑顔で言っただけで、態度も普段と変わらなかった。
ディーンもインパラを運転しながら何かとカスティエルに話しかけてくるが、カスティエルは相槌を打つのが精一杯でディーンを見ることは出来なかった。
そんなカスティエルに後部座席からクラウリーがチクチクと刺さるような視線を送ってくる。
それから5分程、海沿いを走る。
ディーンはクラシックロックを大音量でかけてノリノリだ。
いつもは文句を言うサムも楽しそうに音楽を聴きながら海を眺めている。
カスティエルも太陽を浴びてキラキラと光る海を眺めた。
その時、ディーンが何かを言った。
カスティエルが振り返る。
だがディーンは前を向き、またノリノリでクラシックロックを口ずさんでいた。
そして目の前に大きな旅館が現れた。
その旅館は離れが四部屋あり、それ以外の客は受け入れないという格式ある老舗旅館だった。
フロントとロビーがある外から見えた建物も、伝統ある日本様式の家屋に古美術品がさり気なく飾られていて、サムは嬉しそうに見て回っていた。
そして女将自ら離れに案内してくれた。
離れは平屋建ての大きな日本家屋で、和風で統一されたインテリにツインのベッドルームが二つとダブルのベッドルームが一つある。
リビングに続いて小さなカウンターバーもあり、冷蔵庫にはあらゆる酒や天然水が用意されている。
そしてなんと言ってもこの離れのメインは天然の岩をくり抜いた露天風呂だ。
洗い場は室内にあって露天風呂の前には小川があり、その周りを竹林が覆っている。
ディーンは「スゲー!」を繰り返し全ての部屋と風呂をチェックしているし、サムまでそれに付き合って感嘆の声を上げている。
クラウリーが「じゃあまずは温泉に入るか!」と言うとディーンとサムは大賛成だ。
クラウリーにジロッと見られてカスティエルも小さく頷く。
その前に部屋にある浴衣に着替えて来いとクラウリーに言われ、サムが当然のように「ディーン、行くよ」と言うと、クラウリーがサムの足を踏み付けた。
「イテッ!何すんだよ?クラウリー!」
クラウリーがサムの腕をぐいっと掴み、サムがこごまる。
そしてクラウリーがサムの耳に囁く。
「お前は空気を読める人間だと思っていたが見込み違いだな!
キャスを見て何も感じないのか?
ディーンと二人っきりにしてやれ!」
「…あ!わ、分かった!」
サムは笑顔を作りディーンに向かう。
「ディーン、僕今夜一人でダブルベッドに寝ちゃ駄目かな?
折角の旅行だし、こう広々とさ、寝てみたいっていうか…」
ディーンがあははと笑う。
「お前、自分がデカいって認めたな?
そうだな。
デカいサミィちゃんにこんなチャンス滅多に無いもんな。
ダブルベッドに寝ろよ」
「そ、そうする!
じゃ僕はこれで…」
サムはそう言うと、そそくさとリビングから去っていった。
クラウリーも「じゃあ私は一人で寝るか」と言った途端、そそくさとリビングから去って行く。
ディーンが「キャス、俺達も行こうぜ」と言うと、カスティエルの身体がビクッと震えた。
「…キャス?どした?」
カスティエルの顔を覗き込もうとするディーンをカスティエルが必死でかわし、「何でもない」と答える。
そして「私は眠らないからリビングのソファにいる。浴衣はクラウリーの部屋にある物を使うから大丈夫だ」と一気に言うとディーンに何も言う隙を与えず、ディーンの目の前からパッと消えた。
「うわっ!ビックリしたっ!
突然現れるな!」
クラウリーが浴衣を羽織った状態で、正に突然現れたカスティエルに怒鳴る。
「…すまない。
ただあのままだと私とディーンは同じ部屋になる。
だから飛んで来た。
浴衣を一つくれ」
クラウリーが身体をわなわなさせてまた怒鳴る。
「こんの…大馬鹿者!
ディーンの目の前で消えて来たのか!?
ディーンを一人残して!?
ディーンが傷つくと思わなかったのか!?」
カスティエルがほんの少し驚いた顔をして答える。
「私はディーンと同じ部屋で休む資格は無い。
それに私は眠らないからリビングのソファにいると言ってきた」
「資格!?
昨夜暴走したからか!?
そんなくだらない理由なんて必要無い!
眠らないからソファにいる?
そんなこと言われて消えられたら…ディーンにしたら自分を拒絶されたと思うだろうよ!傷つくんだよ!
そんなことも分からないのか!?」
クラウリーの余りの剣幕にカスティエルが首を傾げる。
「クラウリー、怒っているのか?
だがこれが最善の選択なんだ。
私は昨夜、ディーンが酔っているのを良いことに、ディーンを好き勝手にした。
その罪が心に突き刺さってディーンを見ることもままならない。
一つの部屋にいるなんて到底無理だ。
それにディーンは私がソファにいると言っても傷つかない。
私が天使で眠らないことを知っているし、返って一人でゆっくり出来ると喜ぶだろう」
クラウリーはガクッと肩を落とすと何とか冷静さを保ち、言った。
「お前の言い分はよーーーく分かった。
ディーンの言う人類愛ってやつと昨夜の件ついて、今夜じっくり相談に乗ってやる。
浴衣はクローゼットにあるから一組持ってけ」
カスティエルが「ありがとう」と言って浴衣を持ち部屋を出て行く。
クラウリーは深いため息をつくと、スマホを取り出し電話帳をタップした。
露天風呂は物凄く広かった。
横3メートル、縦2メートルはある。
ディーンとサムとクラウリーはまず室内にある洗い場でさっと身体を洗い、露天風呂に入った。
温度は少し熱めの乳白色で、温泉成分が肌に染み込んでいくようだ。
サムは「足を伸ばしてもまだ余ってる!」とリラックスして嬉しそうだし、ディーンも「気持ち良いな~!温泉っつーのは最高だな!」とご機嫌だ。
クラウリーも「良い湯だ」と言いながら、温泉と洗い場に続くドアをチラチラと見ている。
サムとディーンは、サムが湯を指で弾いてディーンの顔に命中させてから、湯の弾き合いが始まり二人でギャーギャーはしゃいでいる。
そして温泉に入って五分もするとクラウリーが「キャス!早く来い!」と怒鳴った。
しかしカスティエルは現れない。
クラウリーは苦虫を噛み潰したような顔で「ディーン、キャスを呼べ」と言った。
ディーンは「キャス?あれ?アイツまだ来てねーの?」と言ってキョトンとしている。
但し、サムに向かって湯を弾くのを続行しながら。
「いいから呼べ。
キャスのことだから温泉に興味が無いのかも知れない。
だが折角ここまで来たんだ。
キャスも温泉に入れてやりたいだろう?」
ディーンは「温泉を楽しまないなんて勿体ないよな!こんなに気持ち良いのにさ」と言うと、小さくウィンクして「キャス、来いよ!」と大声を出した。
途端に浴衣姿のカスティエルが現れる。
ディーンはニコニコにながら、
「キャスも露天風呂に入れよ。
浴衣は脱いで来い。
洗い場があっただろ?
そこでちゃちゃっと身体を洗ったら裸で来いよ?
クラウリーによると日本の温泉のマナーではタオルで前を隠すのもルール違反だし、下着や水着を履いているのも論外なんだってさ。
温泉は裸と裸の付き合いってやつなんだと」
と楽しそうに説明する。
カスティエルは小声で「……分かった」と言うと、またパッと消えた。
クラウリーが深いため息をつくと「サム、ちょっとこっちに来い」とサムに手招きする。
サムは泳ぐように湯を腕でかきながらクラウリーの元に辿り着く。
「何だよ?」
「キャスが来たら俺とお前は温泉を出て行く。
いいな?」
「何で?」
「だ・か・らッ!
ディーンとキャスを二人っきりにするんだよ!
同じ部屋にする作戦は失敗したからな」
「……そうなんだ。
いいよ、分かった。
でもどうやって?」
「それは…」
その時、扉が開いて全裸のカスティエルが現れた。
するとクラウリーが「逆上せた~私としたことが~」と言ってサムにしがみつく。
サムは顔を引きつらせながら「クラウリー、水分を取って部屋で休みなよ」とやや棒読みで言い、クラウリーを支えて露天風呂を出る。
ディーンが心配そうに「おい、クラウリー大丈夫か?」と訊く。
クラウリーが、がっちりサムにしがみついて「…少し休めば大丈夫だ…」と息を切らして答えると、サムも「僕がみてるから。兄貴とキャスは温泉楽しんで」と言って、二人は扉の向こうに去って行った。
ディーンは「まあサムがいれば心配無いな」と言うと、カスティエルを上目遣いで見上げて「いつまで突っ立ってんだよ?早く温泉に入れよ」と続ける。
カスティエルがディーンから一番離れた場所に音も無く入る。
ディーンが「キャス、温泉どうだ?」と笑顔で訊く。
カスティエルが「良いと思う」とポツリと返事をした途端、ディーンがカスティエルの隣にやって来た。
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