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第13話
それからはそれぞれのんびりと思い思いに自由に過ごし、夕食になった。
温泉で逆上せかかったディーンも、カスティエルが付きっきりで世話を焼いてくれたお陰で大したことも無かった。
それにカスティエルは昨夜のことをディーンに許されたせいで、ディーンとも普段通りに接することが出来るようになれた。
それにディーンの方から「キャス。眠らなくてもベッドにいろよ。俺の部屋ツインで空いてるしさ」と言われて、今夜はディーンと同じ部屋で過ごすことが決まって内心物凄く嬉しかった。
ロウィーナの存在も「やっぱり追っかけてきちゃった」の一言で、ディーンは「やっぱり、だよな~」と笑って納得していた。
但し夕食の時間の1時間程前、カスティエルはクラウリーの部屋にディーンには絶対内密にと呼び出された。
カスティエルはディーンが眠っているのを確認すると、クラウリーの部屋へと向かった。
クラウリーの部屋にはクラウリーとロウィーナだけがいた。
サムはクラウリーの芝居に付き合ってゆっくり温泉に入れなかったからと、露天風呂に入っている。
「何だ?」と訊くカスティエルにロウィーナが楽しげに口を開く。
「私のハンサムさん。
あなたの恋の悩みを解決してあげようと思って。
本当は今夜ファーガスが恋愛相談をする筈だったらしいけど、早く伝えた方が良いと思ったの。
あなた、ディーンに恋して愛していることが伝わらないんでしょ?
というか人類愛だって伝わっちゃってるんでしょ?」
カスティエルが眉をひそめる。
「……そうだ。
だがなぜ君が助けてくれるんだ?
それにどうしてここに居る?」
ロウィーナがにっこり笑う。
「ファーガスに泣きつかれたの。
自分の手に余るって。
それでモナコから飛んで来たのよ~」
「母さん!
私は泣きついてなどいない!」
カスティエルがうんざりした顔をして二人を見る。
ロウィーナはコホンと咳払いをすると、カスティエルの左頬に手を添え、微笑む。
「いい?キャス。
明日は慰安旅行の最後の夜。
それでファーガスがソープランドを貸し切りにして、サムとディーンを招待するの。
あなたはそれを止めては駄目。
ディーンはアジアンビューティーが大好きだから行くと思うけど、もし行くことを躊躇ったら、あなたが行くことを勧める。
そしてディーンが帰ってきたら告白するのよ。
その言葉を教えるわ。
勿論、まじないじゃない。
平凡な人間の二つの言葉よ。
だけどそれでディーンはあなたが人類愛でディーンに触れているのでは無く、あなたの恋愛感情を理解する。
それにディーンに拒まれても、自分の本当の気持ちを伝えられる。
どう?
やってみない?」
カスティエルが自分の左頬に添えられたロウィーナの手を掴む。
「……ディーンに私の気持ちが伝わるのなら何でもする。
だが…」
「だが、何?」
「どうしてもソープランドという場所にディーンを送り込まなければ駄目なのか?
二つの言葉を伝えるだけでは私の気持ちは伝わらないのか?」
ロウィーナはふふっと意味ありげに笑うと、カスティエルの手から自分の手をするりと抜き腕組みをした。
「キャス。
あなたがディーンをソープランドに行かせたく無い気持ちは分かるわ。
ソープランドというのは、女の子と擬似セックスをする所ですものね。
ディーンを愛しているあなたには耐え難いでしょう」
カスティエルが首を傾げる。
「それが分かっているならなぜ…?」
「ディーンはあなたの存在を、天使で親友で家族としか思っていないのよ?
しかもあなたとディーンのしている行為は人類愛だと信じてる。
そんなディーンにただ告白をしたからって、あなたの本心は伝わらないし、最悪ジョークだと思われるわ。
だからディーンをソープランドに行かせるのよ。
あなたは傷つき、嫉妬と悲しみで追い込まれる。
絶望もするかもね。
そしてその切羽詰まった状態でディーンに告白するの。
そうすればあなたはきっと魂からの告白をするわ。
ディーンの心に響く告白よ。
結果、例え報われなくても、自分の愛をディーンに分かって欲しいでしょう?」
カスティエルが一瞬瞳を閉じ、開ける。
その瞳には決意がみなぎっていた。
「分かった。
君の言う通りにする。
二つの言葉と言うのを教えてくれ」
ロウィーナはにっこり笑うと「耳を貸して」と言った。
カスティエルが部屋に戻るとディーンは起きてビールを飲んでいた。
「キャス!どこに行ってたんだよ?」
拗ねたディーンの声。
カスティエルの胸がズキンと痛む。
カスティエルは「ロウィーナに呼ばれてクラウリーの部屋に行っていた。ロウィーナのお喋りに付き合わされていたんだ」と淡々と答える。
ディーンがあははと笑う。
「お前、ロウィーナに気に入られてるもんなー。
サムは露天風呂を一人で満喫したんだってさ。
わざわざ知らせに来たんだぜ、あのヤロー!」
「……そうか。
じゃあ君は夕食の後、一人で露天風呂に入るといい。
今夜は明日の東京観光の為に飲みすぎるなとクラウリーが釘を刺すと言っていたから、心配無いだろう」
ディーンは「ふうん」と言うとソファにボスンと座り、「お前も来いよ」と自分の隣をポンポンと叩く。
カスティエルが静かにソファに座る。
ディーンが「なあ、皆にナイショで二人で入んねぇ?夜の露天風呂!良いアイディアだろ?」と言ってカスティエルを上目遣いで見る。
カスティエルはロウィーナが告白の二つの言葉を教えてくれた後、話した事を思い出していた。
『ディーンは無意識にあなたに甘えている。
甘えと誘惑は紙一重。
だけどディーンは無意識だから気付いていないの。
そしてあなたはディーンの甘え…誘惑に逆らえない。
でも今夜は逆らって。
ディーンに何を言われても、どんなに誘われても、絶対に断るのよ。
あなたと性的欲求を満たしたら、ソープランドに行かないと言い出す可能性が高くなるから。
いい?
あなたの告白の為よ。
ディーンに本心を知って欲しいでしょう?
絶対に断ってね』
「キャス!
おーい、キャス!
聞いてんのか?」
ディーンの声にカスティエルがハッとする。
「…勿論、聞いてる」
やめてくれ…
「なあ、夕食の後、露天風呂に入るよな?」
期待に満ちたカスティエルが愛してやまないヘイゼルグリーンの美しい瞳。
やめてくれ…
「俺の計画はさ、夕食が終わったら俺達は一旦部屋に戻る。
それから皆の様子を調べて、露天風呂に直行!
我ながら名案!」
ディーンの眩しい笑顔。
やめてくれ…ディーン…
私は…私は…
「じゃあ、約束の指切りな!」
ディーンが差し出す小指。
カスティエルはディーンを力一杯抱きしめる。
「…キャス?」
「ディーン…私は…」
言葉に詰まるカスティエルに、ディーンの腕がそっとカスティエルの背中に回される。
そして楽しげに語り出す。
「あのさ…狩りの帰りなんかでさ…田舎でモーテルも遠くてインパラで寝ることになった時なんか、サムと見るんだ」
「…何を?」
「星!
インパラのボンネットにもたれかかってビール飲みながら満天の星を見て、くだらないことを言って笑い合う。
それだけで疲れが吹っ飛ぶんだ。
きっとここの露天風呂から見る夜空も星が綺麗に見れると思う。
日本に来て、こんなスゲー旅館に泊まって、露天風呂に入って見るんだぜ?
最高のシチュエーションだろ?
だから……一緒に見よう」
最後に照れくさそうに言って、ディーンのカスティエルの背中に回した腕にぎゅっと力が籠る。
カスティエルは声が震えないように、必死に冷静に答える。
「分かった。そうしよう」
「やった!」
ディーンが嬉しそうにカスティエルにより一層抱きつく。
ピッタリと触れ合う頬と頬。
カスティエルはディーンが離せと言うまで、ディーンを抱きしめていた。
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