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第18話

ディーンが強い風の音で目を開くと、眼下に暗い海が広がっていた。 高い所に居るのは確かだ。 暗い海に綺麗な橋が架かっているのが見える。 そして自分が誰かに後ろから抱かれていることに気付く。 クラウリーが用意してくれていた黒いブランドスーツでは無いトレンチコートの腕。 ディーンは振り向きたかったが、悲しくなりたく無くて、目の前の輝く橋を見ていた。 するとディーンを抱く腕の持ち主がクスッと笑った。 「ディーン。 困るのが早過ぎないか?」 ディーンが腕の中でゆっくり振り返る。 そこには微笑むカスティエルがいた。 「キャス…!」 ディーンがカスティエルに抱きつく。 「ディーン、何があった? 君を助け出した場所はソープランドという建物だろう? 君の大好きなアジアンビューティーと擬似セックスを出来る場所だと聞いたが…。 君が私に助けを求めた声は、心の奥底からの救いを願う叫びだった。 酷い仕打ちをされたのか? 怪物が化けていたのか?」 ディーンがカスティエルに抱きついたまま、ブンブンと首を横に振る。 「……あの子は何にも悪くねえ…。 俺の身体をスゲーモコモコの泡で洗ってくれようとプロらしくテクニックを使ってた…。 きっと凄く気持ち良いんだと思う…普通なら。 でも…駄目なんだ…!」 「…何が?」 ディーンが顔を上げてカスティエルを見つめ、怒鳴る。 「気持ち悪い!」 ディーンの瞳に涙が滲んでいて、カスティエルは何も言えなくなる。 そんなカスティエルの肩をディーンが揺さぶる。 「お前が悪いんだぞ! 何で急にさよならなんてするんだよ! だから俺がこんな目に遭うんだ! お前のせいだ! お前の…」 ディーンのヘイゼルグリーンの瞳から涙が一粒落ちる。 カスティエルが指先で涙を掬う。 まるで真珠のようだと思いながら。 そして泡だらけのディーンを力一杯抱きしめる。 「私が悪い。 全部、私が悪い。 ディーン、済まなかった」 「…そうだよ。 キャスの馬鹿野郎…」 すっと吹いた風にディーンが身を縮こまらせる。 「…寒っ…ここ何処だ?」 ディーンの呟きに、カスティエルがハッとしてディーンを抱きしめていた腕を解き、ディーンの手を握って歩き出す。 「ここは東京のお台場という場所にあるホテルのテラスだ。 君が私を呼んだ時、助けを求める君の心に虹が見えた。 だから自然とここに飛んだ。 あの光っている橋はレインボーブリッジと言うんだ。 このテラスにはジャクジーがある。 さあ入れ」 「…ん…でも消えるなよ!」 ディーンが念押しするようにカスティエルをビシッと指差し、ジャクジー風呂に入る。 カスティエルがジャクジーの横の床に座ると、ディーンが気まずそうに口を開いた。 「ロウィーナに言われた。 俺はお前が初めての友達で親友で家族だから幸せで、お前の本音に気付いて無いって。 お前は今のままで俺の傍にいて幸せなのかって」 「幸せだ」 間髪入れずにカスティエルが言う。 「でも…でも…お前さよならって言って消えたし、幸せなら消えないだろ? それと俺に何か告白することがあるんだろ? …言えよ」 「もういいんだ」 そう呟くと、カスティエルはディーンの濡れた髪を手ぐしで梳かした。 その手をディーンが掴む。 「よくねえよ! ロウィーナはお前が俺にすることは人類愛じゃないと言い切った! 人類愛じゃない自分の本心を伝えようとしてたって! だけど俺がそれを昨夜拒絶したから、お前は暴走して俺を諦めたって! 俺は拒絶なんかしてない! 俺が何をした? 教えてくれよ! それにロウィーナは、お前が告白して来たら親友と家族を失う覚悟で答えろって言った! 覚悟は出来てる。 俺は真剣に答える。 だから告白っつーのをしてくれよ!」 必死に言葉を紡ぐディーンに、カスティエルは驚いた顔をした後、やさしく言った。 「分かった。話そう」 ディーンの喉がゴクリと鳴った。 「まず、昨夜私は絶望したんだ。 私が君に向ける愛情を、君が人類愛だと心底思っていると思い知らされたからだ」 キョトンとしているディーンにカスティエルがやさしく微笑みかける。 「二人きりで露天風呂に入った時だ。 君は私の生殖器を興奮状態にしようと触ってきた。 なんの躊躇いも羞恥心も無く。 人類愛が高まる頃だから手助けをする、ただそれだけの気持ちで。 それは君を愛している私への完全な拒絶だ。 それで思い知らされた。 君は私を恋愛対象として1ミリも見ていない。 私の愛情は伝わらないと。 それで私は君に二度と触れないと覚悟を決めた。 それで最後に君に触れられるのなら、せめて天使では無く、君を愛するただの男だと君の記憶に残りたくて酷いやり方をした。 私は馬鹿だ。 本当に済まない。 そしてもう君の傍にいることが出来なくなった。 手の届くところに君がいたら、私は君を追わずには居られない。 例え絶対に報われないと分かっていても。 君との関係に限界がきたと確信した。 だから君の前から消えた。 でもそれは間違いだと気付いたよ」 「…間違い?」 「そうだ。 君のさっきの助けを呼ぶ声を聞いて気付いたんだ。 大切なのは私が君を愛しているということで、君が私を愛しているかどうかはどうでもいい。 君をこうして助けて、傍にいて、君の役に立てれば。 こんな幸せは無いだろう?」 「…キャス…」 子供のように目を丸くしてカスティエルを見上げるディーンに、カスティエルが手の平を差し出す。 「さあ、手を乗せて」 カスティエルの言うがままにディーンがカスティエルの手の平に手を乗せる。 するとカスティエルが座った姿勢から、片足を立て跪く。 まるで童話に出てくる王子様のように。 そしてディーンの瞳を見つめて言った。 「それでも告白はしたい。 君には迷惑かも知れないが、けじめを付けたい。 そうすれば私は君の親友で家族という存在に戻れる。 ロウィーナが教えてくれたよ。 ILoveYouでは君に私の気持ちは伝わらないから、二つの言葉で告白しろと。 だから言う。 ディーン。 君は私の初恋の人だ。 恋人になって欲しい」 ディーンは瞬きもせずカスティエルを見つめている。 そして数秒後、ディーンはカスティエルの手の平の上に乗せた手でカスティエルの手首を掴み、思い切り引っ張った。 バランスを崩しジャクジーに落ちるカスティエルに、ディーンがぎゅっと抱きつく。 「ディ…ディーン…?」 「お前は天使なんだから、濡れたって平気だろ」 「それは…そうだが…。 返事をくれないか?」 「返事は…」 ディーンは言葉を切ると、照れ臭そうに言った。 「この先も…お前がずっと俺を愛してくれるといいな…恋人としてさ…」 「ディーン…!」 カスティエルがディーンの顔を両手で包み、キスの雨を降らせる。 ディーンは長い睫毛を伏せ、カスティエルのキスを受けていた。 そうしてディーンがゆっくり瞳を開ける。 カスティエルのキスが止まる。 ディーンはぷいっと横を向くと、拗ねた口調で言った。 「俺もお前に告白することがある」 カスティエルの心臓が煩いくらい鼓動を打つ中、ディーンは横を向いたまま、モゴモゴと話し出す。 「俺は…お前と…その、昨夜みたいなことを初めてしてから…誰ともセックスしてない…」 「…え…?」 ディーンがカスティエルを正面から見る。 ディーンは真っ赤だ。 「え?じゃねえ! 何で俺がこんなこと言わなきゃなんねーんだ! お前以外とセックスどころかキスもしてねーよ! 分かったか!この鈍感!」 「…ディーン…!」 次の瞬間、ディーンとカスティエルはベッドの上にいた。 ディーンは仰向けでダブルベッドの中央に横になっていた。 全裸の身体は頭から爪先まで乾いていて濡れているところは無い。 「…此処は…?」 ディーンの呟きに、ディーンと同様全く濡れていないトレンチコート姿のカスティエルがディーンに覆いかぶさって「テラスの続き部屋だ」と何でも無いことのように答える。 そして次の瞬間ディーンの唇が塞がれた。 「…も…やだ…やめろ…アッ…そこ、ダメ…アアッ…!」 ディーンが真っ赤な顔で涙を零しながら、腰の下に枕を差し込まれ足をM字に開いてカスティエルに何度目かの懇願をしていた。 キスから始まったカスティエルの愛撫は、いつも通りどんどんディーンを追い込んでいく。 そしてカスティエルはディーンのはち切れんばかりの雄を巧みに舌で責めながら、また蕾の中の膨らみをゴリゴリと擦る。 「…ヒッ…イくっ…キャス…!ああぁ…!」 最初の3回はディーンがそう言えばイかせてくれたが、その後、ディーンの蕾に慎重に指を入れながら、ディーンが知らなかった蕾の中にある『男も感じる場所』の膨らみを擦っては、イかせる寸前にディーン自身の根元をキツく掴んではイかせ無いを繰り返している。 ディーンは頭は回らないし、身体はぐずぐずになって蕩けてしまっている。 それなのにカスティエルは確実に指を増やし、ディーンにしてみれば快感なのに苦しくて、悔しいけれど涙は止まらないし、カスティエルに「やめて」と懇願することしか出来ない。 「…も、やだ…キャスの、馬鹿…イかせろってば…」 「愛してる…ディーン…」 カスティエルも息を荒くしてディーンの唇にキスを落とす。 そしてまた膨らみを擦られ、三本の指で中をバラバラと動かされディーンの身体が跳ねる。 「…アッ…アアッ…やだっ…キャス…イきたいっ…死ぬ…っ…も、早くしろよ…ッ…!」 カスティエルの中の指がピタリと止まる。 「早くしろ、とは?」 冷静な問いかけにディーンは息も絶え絶えに答える。 「だ…だから…セックスすんだろ…早く挿れろってば…! しつこいっ…!」 「……いれる? 私のペニスを挿入してもいいのか?」 ディーンが泣き顔のまま精一杯カスティエルを睨みつける。 カスティエルに、何てかわいいんだ!と感動されていることも知らずに。 「そうだよっ…! その為に、お前は俺の尻の中を…解してんだろ…っ…! も、大丈夫だから…早く、しろってば…!」 必死に言うディーンを、カスティエルは見つめたまま、無言で猛った雄でディーンを貫いた。 カスティエルの雄がディーンの奥にドンと当たった瞬間、ディーンはイってしまっていたが、根元を掴まれているせいで放出出来ない。 ディーンの身体を快感が駆け巡り、ブルブルと身体を震わせる。 そんなディーンを全く無視して、カスティエルがガンガン穿ってくる。 「…ディーン…君は最高だ…なんて気持ち良いんだ…」 ディーンはただ喘ぐしかない。 けれど快感の波に翻弄されながらも何とか「…キャス…イきたいッ…手を、離せ…っ…!」と訴え続けていたら、カスティエルが根元を掴んだままだったのを思い出したように手を離し、上下に軽く扱いた。 ディーンは「…アッ…いいっ…!アアー…っ!」と叫ぶと呆気無く白濁を溢れさせた。 ディーンの身体の奥が濡れるのがディーンに伝わる。 ああ…キャスもイったんだ…と、ディーンが目をチカチカさせながらぐったりと快感に浸っていると、信じられないことが起こった。 カスティエルの雄が、ディーンの中でむくむくと大きくなっていったのだ。 嘘だろ…!?と驚愕しているディーンをよそに、カスティエルがうっとりと「君が射精した瞬間、君の中が私のペニスにまとわりつき締め付けた…。君は最高に気持ち良い」と言った途端、またガンガンと感じる場所を的確に擦り上げながら最奥目掛けて穿ってくる。 今度はディーンの白濁にまみれた雄を扱きながら。 ディーンの思考は止まり、カスティエルの嵐のような愛撫を受け止めるのが精一杯だ。 そして全身が性感帯になった身体をカスティエルに預けると、ディーンは快感の淵に落ちていった。

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