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第19話
そしてディーンとカスティエルの初体験から4日目の朝、ディーンとカスティエルは賢人の基地の冷たい床に並んで正座をしていた。
目の前には顔を真っ赤にして怒っているサムと、呆れ顔のクラウリーが立っている。
その奥にはロウィーナが椅子に座り、楽しそうに赤ワインを飲んでいる。
「カスティエル、何であんな真似したんだ!?」
サムが青筋を立てて怒鳴る。
カスティエルは表情一つ変えず淡々と「ディーンが私に助けを求めたから救出した」と答える。
「だからってソープランドに雷を落とす必要は無いだろう!?」
カスティエルはまたも淡々と答える。
「あれは雷では無い。
私の恩寵だ。
ディーンを確実に救おうとしたら、少し天使のパワーが強くなってしまったんだ」
「少し!?
新宿区全体が1分間停電したんだぞ!
それにあのソープランドの電気系統が全て破壊された。
兄貴を確実に助けるって言っても、加減っていうものがあるだろう!?」
カスティエルが首を傾げる。
「ディーンは心底私に助けを求めたんだ。
私はディーンを愛している。
君だって人を愛したことがあるだろう?
愛する人が助けを求めたら全力で助けるだろう?」
「だからって…!」
ガルルと唸り声を上げそうなサムの肩をクラウリーがポンと叩く。
「もうその位にしとけ。
キャスは愛するディーンを助ける為に、少~し天使のパワーが強かったとしか思っていない。
これ以上訊いても時間の無駄だ。
それよりなあキャス。
ソープランドの壊れた電気系統は私が完全に直した。
まあちょっと手間だったが、お前とディーンがそれで上手くいったのなら、何てことないさ。
それよりも…」
クラウリーの瞳がギラリと光る。
「私とサムはさあこれからお楽しみ~ってところでぶち壊されたんだ!!
ソープランド女の子達は突然の雷と地震に大パニックだ!
私はすぐさまロウィーナを呼んだ。
私は電気系統を直し、ロウィーナに女の子達とあのソープランドにいた従業員全員の記憶を操作して、お前の尻拭いをしたんだぞ!
その償いはキッチリしてもらうからな!」
サムもそうだ、そうだと騒いでいる。
そしてクラウリーが怒りに満ちた声で続ける。
「そしてお前達は四日間行方不明になった。
私とロウィーナは日本中を血眼になって探したが、私達の力を持ってしても行方は分からなかった!
そして今朝、突然インパラに現れた。
一体何処で何してたんだ!?」
カスティエルがキッとクラウリーとサムを睨む。
そして毅然と言った。
「君達は私を責めている。
当然だと思う。
本当に済まなかった。
この償いはする。
だがディーンは君達の言う問題行動は起こして無いし、私がいれば君達の尋問に全て答えられる。
だからディーンを解放しろ。
正座をさせられているせいで、ディーンの足は痺れているし、冷えている。
可哀想に…」
カスティエルがディーンを慈しみに満ちた瞳で見つめる。
ディーンはと言えば、下を向いてうつらうつらしている。
カスティエルがやさしくディーンの手を握る。
その瞬間ディーンとカスティエルは消え、次の瞬間カスティエルだけが現れた。
カスティエルは律儀に元いた場所に正座をする。
サムとクラウリーは茫然としていたが、サムが何とか自分を立て直す。
「兄貴を何処にやった!?」
「ディーンの部屋のベッドに寝かせて来た。
さあ、好きなだけ尋問を続ければいい」
「尋問じゃない!
君の行動がどれだけ僕達やソープランドに居た人達に迷惑を掛けたか自覚して反省して欲しいんだ。
そして僕達が行方不明になったディーンをどんなに心配したか分かって欲しい。
電話の一本も掛けられなかったのか?
納得出来る説明をしてくれ」
カスティエルが不思議そうにサムを見上げる。
「ソープランドを故障させてしまったことは謝罪をしたし反省もしている。
償いもする。
四日間行方不明だったのは、ディーンを助けた時、ディーンの心の中に虹が見えた。
私は無意識に虹を求めたようで、お台場にあるレインボーブリッジが見える場所に飛んだ。
そこはたまたまホテルのテラスだった。
そしてロウィーナの助言の通りディーンに告白をした。
ディーンは私を受け入れてくれて、恋人同士になれた。
私はそれが幸福で、場所もホテルだったせいで三日三晩ディーンとセックスをしていた。
電話なんて忘れる程、幸せの絶頂にいたんだ。
昨日の夕方インパラに戻ったのは、ディーンが前日から10時間43分22秒眠っていたので、君達と合流するのが遅くなってしまった。
心配をかけて済まない。
以上だ。
質問はあるか?」
サムが握り拳を震わせていると、クラウリーがパッと笑顔になった。
「キャス!
とうとうディーンと両想いになれたんだな!
おめでとう!
それにしても三日三晩ヤり通しとは…天使の性欲恐るべし、だな!
まあ単にお前がドスケベだとも言えるが」
「おめでとうじゃない!」
サムの怒鳴り声が響き渡る。
「三日三晩セックスしていた!?
よくもしゃあしゃあと…!
ディーンは人間なんだぞ!
過労で死んだらどうするんだ!」
カスティエルはジロリとサムを見上げると、またも淡々と言った。
「そんな事は分かっている。
ディーンにはきちんと食事と睡眠を取らせたし、ディーンの好きな泡風呂にも最低限1日1回は入った。
だが、ホテルを通常の手続きでチェックインしていないし、誰にも邪魔されたくなかったのでバリアを張った。
だからクラウリーとロウィーナの捜索に引っかからなかったんだろう。
クラウリー、ロウィーナ、手数を掛けて済まない」
ロウィーナが立ち上がり、赤ワイン入りのグラス片手に優雅に歩いて来る。
そしてカスティエルの前に立ち止まると、微笑んでカスティエルの頬に手を当てた。
「私のハンサムさん。
経過はどうあれ、あなたとディーンが恋人同士になれて嬉しいわ。
私は償いなんていらない。
お願いが一つあるだけ。
ファーガスも私と同じよ。
これからもお幸せにね」
そう言うとロウィーナはカスティエルの頬にキスをする。
カスティエルが目を細める。
「ロウィーナ。
色々とアドバイスをしてくれて本当にありがとう。
勿論、願いをきくよ。
クラウリーもそれでいいのか?」
いつの間にかクラウリーはスコッチの入ったグラスを手にしていて、「勿論だ」と答えるとグラスに口を付ける。
「サム。
では君に償いたい。
何でも言ってくれ」
カスティエルの言葉にサムは腕を組み、うーんと考え込む。
実はサムは怒りと心配で頭が一杯で、カスティエルに償って貰おうなどと微塵も考えていなかったのだ。
そんなサムにすすすっとクラウリーが近ずき、小声でコソコソと耳打ちする。
サムが口元を手で多い、「いや…それはちょっと…」とごにょごにょ言って、またクラウリーが小声でコソコソと耳打ちすると、サムは「……分かったよ。ありがとう。そうする」と答える。
そしてクラウリーがクルっとカスティエルに向かって振り返る。
「キャス。お前のサムへの償いは私が叶える。
ほら立ってディーンのところに行け!」
「……お前が?なぜ?」
カスティエルが不思議顔で、更に首を傾げながら訊く。
クラウリーは余裕の態度で答える。
「この旅行はクラウリー旅行会社主催だからだ。
クラウリー旅行会社にお任せ下さいってことだ」
カスティエルがフラリと立ち上がる。
「…そうなのか?
本当にサムはそれで良いのか?」
「あーもー!
天使は疑り深いな!
それで良いんだよ!
但し、ロウィーナと私はの願いはきけよ」
「勿論だ。ありがとう」
カスティエルは笑顔で消えた。
そしてサムは目覚めたディーンとの再会を果たし、ディーンから「心配かけてごめんな」と言って貰うと、今度は一人で日本旅行に出掛けた。
インパラには乗らず、クラウリーがガレージから10歩で『あの』ソープランドに着くように、時空の空間を修正してくれたのだ。
そうして二泊三日の日本での一人旅を終えたサムが賢人の基地に帰ると、ディーンが「よっ!お帰り!一人旅はどうだった?」と笑顔で迎えてくれた。
「ディーンは調子どう?」
「調子?何でそんなこと訊くんだよ?
俺は絶好調!
で、調べ物してたってとこだ」
「ディーンが調べ物?珍しいね」とサムは言いながら、旅行用のブランドバッグをテーブルに置く。
今回はクラウリーが同行していないので、予めクラウリーが用意してくれたハイブランドの衣類や日常品などを、これまたクラウリーが用意してくれたブランドバッグに詰め込んで旅行に行ったのだ。
「それがさあ」
ディーンが唇を尖らせる。
「キャスのヤツ、自分の部屋に篭って報告書みたいなのにかかりっきりなんだよ。
旅行で迷惑をかけた償いの代わりに、クラウリーとロウィーナにお願いを頼まれたんだと。
お前はいいよな~キャスの償いに、ソープ嬢の沙也加ちゃんとエッチ付きのデート三昧だったんだろ?
ソープ嬢と外でデートするのって、かなりレアで金もかかるんだってな~。
よっ!この色男!」
サムがサーッと青ざめる。
「……何でディーンが知ってるんだ?」
「クラウリーが自慢してた」
あっけらかんと答えるディーンに、サムは目眩に襲われる。
「そ、そう。
じゃあ僕はシャワー浴びたら洗濯するから」
そそくさとリビングを後にするサム。
ディーンに「おう!後で武勇伝聞かせろよ!」と笑顔で見送られながら。
サムはディーンに言った通り、シャワーを浴びると洗濯に取り掛かった。
ハイブランドのスーツはクリーニングに出すしか無いが、下着や靴下など小物がある。
そしてバッグを空にすると、バッグの一番下に水彩画で綺麗な風景が描かれたカードを見付けた。
サムに心当たりは無かったが、もしかして…沙也加ちゃんからのメッセージかも!?とウキウキしながらカードを開いた。
そこには美しい筆記体の英語で、
『追加のご旅行はご満足頂けたでしょうか?
弊社は個々のお客様に合ったご旅行をご用意するのがモットーでございます。
これからもご旅行はクラウリー旅行会社にお任せ下さい。』
と書かれていた。
クラウリーのニヤつく顔がサムの頭に浮かぶ。
サムはカードをシュレッダーにかけるべく、洗濯室を出た。
そしてふと気が付いた。
償いだ何だと言いながら、僕を最後までからかう、あのクラウリーが頼んだっていうキャスが作成している報告書はまともな物じゃない!!
サムはダッシュでキャスの部屋へと向かった。
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