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第3話
漆黒の豪雨の中、インパラはひた走る。
行先は勿論チャーリーが泣きながら告げたモーテルだ。
ディーンはモーテルの駐車場にインパラで乗り付けると、「チャーリー!」と叫んで運転席から飛び出す。
サムとカスティエルもその後に続く。
チャーリーは一目で分かった。
一階の扉の前でしゃがんで泣いている。
「チャーリー!
どうした?
何があった!?」
ディーンに肩を掴まれ、チャーリーがディーンに抱きつく。
「ディーン!
わ、私…頭がおかしくなったみたいなの!
もう少しで精神病院に入れられるところだった…!」
ディーンがやさしくチャーリーを片手で抱きしめ、もう片方の手でチャーリーの濡れた髪を撫でる。
「何があった?
ゆっくりでいい。
話してくれないか?」
「そ、その前に…部屋の中を見て…。
どうなっているか教えて…」
「ああ、いいよ」
チャーリーが震える手でモーテルの部屋の鍵を上着のポケットから出そうとして床に落とす。
それをディーンがさっと拾う。
そしてディーンは並んで雨に打たれながらディーンとチャーリーを見守っているサムとカスティエルに向かう。
「サム!部屋の中に入る!
キャス!チャーリーを頼む!」
サムとキャスがそれぞれ配置に着く。
キャスは泣きじゃくるチャーリーの肩に手を置き、片手に天使の剣を持っている。
ディーンとサムは銃を構え、ディーンが音を立てないようにそっと扉の鍵を開ける。
二人が踏み込んだ部屋はごく普通のモーテルだ。
綺麗に清掃されているし、ツインのベッドも使われた様子が無い。
ディーンとサムは無言で目配せをすると、ディーンはクローゼット、サムは浴室に向かう。
だがディーンが銃を構えながら開けたクローゼットは空だ。
サムも「クリア」と言いながら浴室から出てくる。
ディーンが首を傾げる。
「何にも無いな?」
サムが頷く。
「ああ、何も無い。
チャーリーに安全だと知らせて、部屋の中で話を聞かせて貰おう」
部屋からディーンとサムが出てくると、チャーリーは絶望的な瞳をして言った。
「見えてないのね…?」
ディーンが笑顔でチャーリーに近づく。
「見えないって何が?
部屋は掃除したてみたいに綺麗だったぜ?」
チャーリーがカスティエルの手を振り払い、部屋に向かって走る。
「チャーリー、待てよ!」
ディーンとサムがチャーリーを追って部屋の中に戻る。
チャーリーが絶叫する。
「このベッドに血塗れの男の人が寝てるの!
でも二人にも見えないんだ…!
やっぱり私は頭がおかしい…!」
ディーンとサムが二つのベッドに目をやる。
しかし誰も見えないし、ベッドメイキングされたてのように、皺一つ無い。
チャーリーは床にしゃがみこんで号泣している。
「血塗れの男の人間がいるのか…?」
ディーンがサムに囁く。
サムが「でもチャーリーにしか見えていない。つまり人間とは限らない。こういう時はこれだ」と言ってスマホを上着のポケットから取り出す。
「カメラか!」
「そうだ。幽霊ならカメラに映る。
怪物だって本当の姿が見える。
やってみよう」
ディーンが頷き、上着のポケットからスマホを取り出す。
そしてカメラで見た『モノ』は。
背が高く逞しい男で、まるでローマ神話に出てくるような白いローブを着て、頭には黄金に宝石が散りばめられたティアラのような王冠を被り、腰にも黄金の長剣を差し、胸にも黄金の胸まである長いネックレスをしている。
足元は素足に皮の編上げのサンダルだ。
そしてチャーリーの言う通り、ベッドに血塗れで横たわっていた。
ディーンはチャーリーを支え、サムも一緒に一旦部屋から出た。
チャーリーがへなへなとモーテルの廊下に座り込む。
ディーンがしゃがみ、チャーリーと視線を合わせる。
「チャーリー、俺達にも見えたよ。
スマホのカメラ越しだったが。
あの血塗れの人間もどきは誰だ?
順を追って話してくれないか?」
その時、カスティエルが「人間もどき?人間では無いんだな?」と言った。
サムが頷く。
「人間なら僕達にも絶対に見える。
でも見えなかった。
ベッドメイキングされたベッドが二つ並んでいるだけだったよ。
だけどスマホのカメラ越しに見えたんだ。
つまりベッドに横たわっている血塗れの男の人間の姿をしている『何か』は、人間じゃない」
「よし、分かった。
私も確認する。
君達に危険が及ぶかもしれないから、車に乗って待っていろ」
ディーンはチャーリーを抱き起こしながら、カスティエルを見る。
「分かったよ。
でもお前も危険だと判断したら直ぐにインパラに飛べ」
「分かっている」と答えるカスティエルの手に握られている天使の剣がギラリと光る。
そしてカスティエルは部屋の中に入って行った。
カスティエルは1分もかからずインパラに戻って来た。
運転席の窓ガラスをノックすると、「ディーン、トランクを開けてくれ。彼を乗せて基地まで帰る。それと鉄の手錠と鎖を用意てくれ」と言った。
ディーンとサムがインパラから飛び出して、トランクを開け、鉄の手錠と鎖を取り出す。
二人には見えないが、カスティエルはベッドにいた『何か』を担いでいて、その『何か』をトランクに押し込むと鉄の手錠をし、身体を鉄の鎖でぐるぐる巻きにした。
ディーンとサムはスマホのカメラ越しにそれを見ていた。
「やっぱりコイツは怪物なのか?」
ディーンの問いに、カスティエルはディーンの頬を伝う大粒の雨からディーンを守るように片手でディーンの頬を包むと、「このままでは風邪を引く。基地に帰ったら話す。チャーリーにやってもらわなければならないこともあるし、話も聞かなければならない。トランクを閉めてくれ。だが絶対にトランクの中の彼に手を触れるな」と言うと、インパラの後部座席に乗り込んだ。
基地に着くとカスティエルがトランクに閉じ込めた『何か』を背負い、「絶対にこれに触るな」と念押しすると、一人で地下の監禁部屋へと急いだ。
ディーンはチャーリーの世話をサムに頼むと、スマホ越しにカスティエルの行動を見ていた。
カスティエルはまじないが描かれた床の上に『何か』をそっと横たえる。
勿論、鉄の手錠も身体をぐるぐる巻にしている鉄の鎖もそのままだ。
だが、どんなに目を凝らしても、血は見えても傷らしきものは見えない。
『何か』を担いでいたせいか、カスティエルも血塗れだ。
カスティエルは「これでいい」と言うと、物陰に隠れ、一瞬でディーンの前に戻って来た。
カスティエルはもう血塗れでは無く、いつもの通りカスティエルに戻っていた。
「キャス。
コイツをどうする?」
「コイツはこのまま監禁しておく。
次はチャーリーだ」
そうして二人は監禁部屋を閉めて、チャーリーがいるリビングへと向かった。
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