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第4話
チャーリーは毛布に包まれガタガタと震えながら泣いていた。
カスティエルが「サム、バスタブにぬるめの湯を張れ。私は死海の塩を取ってくる」と言うとパッと消え、またパッと現れた。
その手には赤でまじないが描かれているグレーのずた袋を持っている。
カスティエルがジロリとサムを見上げる。
「風呂の準備は出来たか?」
サムは「キャスが戻るのが早過ぎるよ!今すぐやるから」と言いながらダッシュで浴室に向かう。
チャーリーの肩を毛布ごと抱いていたディーンが、「キャス。そろそろ事情を教えてくれねーか?」と言うと、カスティエルは珍しく焦った口調で答えた。
「今は時間との勝負なんだ。
チャーリーを清めるのが先決だ。
でなければチャーリーは死ぬかもしれない」
ディーンのヘイゼルグリーンの瞳が見開かれる。
「チャーリーが死ぬ…?」
「かもしれない。
だから今は私の指示に従ってくれ。
チャーリーが清められたら、私の知っていることを全部話す」
「了解!」
ディーンは即答すると、チャーリーを抱きしめる。
「チャーリー、いいか。
これからはキャスの指示に従え。
チャーリーは絶対俺達が守る。
分かってるくれるよな?」
チャーリーがディーンの腕の中で、しゃくり上げながらコクコクと頷く。
するとそこにサムが走って戻って来た。
「ぬるめのお湯を張ったよ!
これからどうしたらいい?」
カスティエルがディーンに縋りついているチャーリーに向かって言う。
「チャーリー。
君はこれからこの死海の塩を混ぜた湯に頭から爪先まで浸って貰う。
潜るんじゃない。
完全に沈むんだ。
そして湯の中では目を絶対に閉じるな。
開けていてくれ。
時間は60分。
さあ浴室に行こう」
チャーリーがディーンからガバッと離れ、涙で滅茶苦茶な顔でポカンとカスティエルを見たかと思うと「それって拷問じゃん!それに私は人間よ!?60分間も沈んでいられない!」と怒鳴る。
カスティエルは怯む事無く、淡々と答える
「息継ぎはしてもいい。
但し、沈んでいる時間の合計を60分にするんだ。
時間は私が正確に計るから問題無い。
さあ行こう」
そうしてカスティエルはチャーリーの腕を掴む。
次の瞬間、二人は消えた。
そしてディーンとサムがジリジリとリビングで待つ中、二時間弱でチャーリーとカスティエルが戻って来た。
チャーリーは新しいトレーナーとジーンズに着替えているし、髪も綺麗に乾かされている。
「チャーリー!大丈夫か!?」
ディーンとサムの声が重なる。
チャーリーは自分の横にいるカスティエルを見上げると、「キャスに拷問されたけど平気」と笑って答える。
カスティエルが苦い顔になり、「あれは拷問じゃない。今の君に必要な清めの儀式だった。……辛かったのは認めるが」と言って横を向く。
チャーリーがそんなカスティエルの肩をポンと叩く。
「分かってるよ、キャス。
海より塩辛いお湯に沈んだせいで腫れて真っ赤になった目も治してくれたし、感謝してる。
ありがとう」
カスティエルがチラリとチャーリーを見て「…どういたしまして…」と呟く。
ディーンも笑顔で「これでチャーリーは清めの儀式っつーのを終わらせたから、危険は無いんだろ?」とカスティエルに訊く。
カスティエルが「ああ、もう大丈夫だ」と答えると、今度はサムが「じゃあ地下にいるアイツは何なのか、そろそろ話してよ」と言う。
カスティエルは「その前に、万全を期す為にチャーリーの話を先に聞きたい」と答えると、チャーリーが「いいよ」と言って椅子に座る。
ディーンとサムとカスティエルも椅子に座ると、チャーリーが三人をぐるっと見渡し話し出した。
「一昨日ゲーム仲間から連絡があったの。
『折角だから前夜祭をやらないか』って。
まあ前夜祭って言ってもバーベキューみたいなもん。
場所は明日のイベントのすぐ側で、集まるのも20人前後のいつもゲームでチームを組んだりしてる親しい仲間だけだし、天気予報も晴れだったし、よしやろう!ってことになったの。
でも会場の近くに着いたら突然土砂降りの雨が降って来た。
雷もよ。
それでバーベキューは中止になったって電話が着て、私はモーテルに向かうことにした。
その時、車で何かを轢いたの」
「アイツを車で跳ねたの!?」
「サーム。話の腰を折らないで。
車で跳ねたんじゃなくて、轢いたの。
でも普通は道路に人間が横になっていたとしたら、誰だって絶対に気付く。
ブレーキをかけて轢いたりしないでしょ?
私もそう。
でも道路には何も居なかったから、普通に走ってた。
そしたら何かを轢いた感触がタイヤから伝わってきて、慌てて車を止めた。
そして車から降りたらあの人が倒れてた…血塗れで。
それにあの衣装でしょう?
てっきり明日のコスプレ大会に出席する人で、前夜祭にも来たんだと思ったの!
私は直ぐに警察を呼んだ。
警察と救急車は直ぐに来たわ。
でも誰にも彼が見えないの!
そして私は、怪我か何かで倒れていた動物を轢いたんじゃないかってことになった。
それでその動物は私に轢かれたショックで蘇生して、ビックリして逃げたんだろうって。
でも私には血塗れの人間が見えてる。
治療してあげたくて必死に訴えたわ。
そうしたら今度は、動物を轢いた衝撃で私が頭を打ったんじゃないかと警察と救命士が言い出した。
私は頭なんか打ってないし、早く彼を病院に連れて行ってあげてって言い続けた。
そしたら今度は何を言い出したと思う!?
私が頭がおかしいか、クスリでラリってるんじゃないかって言ったのよ!
それで『私を』救急車に乗せようとした!
だから私は一芝居打って、警察と救命士にお帰り頂いて、モーテルに血塗れの彼を運んだ。
まず私は一人でチェックインした。
彼を寝かせる為にツインの部屋をね。
それから車に寝かせてある彼を迎えに行った。
今思うと変だけど、彼は凄く軽かったから私でも簡単に運べた。
そしたらその途中でモーテルの従業員に会ったの。
モーテルの従業員は私に『こんな雨の中、お一人で何してるんですか?手助けしますよ』と親切に言ってくれた。
そしたら…急に怖くなったの…!
警察や救急車が来ている時は、兎に角私の話しを信じてもらって彼を助けて欲しくて必死だったから、彼が他の人に見えないということは、私の中で後回しになってたんだと思う…。
でも一般人にサラッと『お一人で何してるんですか?』と言われたら、急に恐怖が襲ってきた。
私以外は彼が見えないんだと、自覚した。
それでディーンに電話をしたの」
チャーリーは一気に話すと、深く息を吐いた。
ディーンが微笑んでビール瓶をチャーリーに差し出す。
「そうか、大変だったなチャーリー。
まあ飲め。
喉乾いただろ」
「うん!ありがとう、ディーン」
チャーリーはビールを一気飲みすると、カスティエルをキッと睨む。
「次はキャスだよ。
私が轢いた人間もどきの正体はなんなの?」
「その前に一つ質問をさせて欲しい。
チャーリー、彼を発見した側に大きな木が生えていないか?
樹齢千年位の」
「…そういえば…樹齢千年かは分からないけど、大きな木はある!
ゲームの世界で大きな木が重要な要素になってるから、確かイベント大会があそこに決まったの!」
カスティエルが頷くと、全員を見渡し毅然と言う。
「皆に守ってもらいたい事がある。
彼には絶対に触るな。
チャーリーは彼に触った。
正確には彼の血に触れた。
だからチャーリーにだけ、彼が見えた。
チャーリー、彼の血に触れなかったか?」
チャーリーがハッとした顔になる。
「そういえば…警察が来るまでに、息をしてるか確認したくて首に手を当てた…。
それと傷口を押さえようとして、衣装を捲った。
傷口は分からなかったけど…」
「やはりな。
いいか、彼の血は人間にとって『悪』だ。
だから私はチャーリーに清めの儀式を行った。
彼の血が着いた手で目元を触った可能性があるから、眼球と粘膜もだ。
彼の血は、皮膚からも粘膜からも吸収されてしまうんだ」
ディーンが眉を顰める。
「じゃあやっぱり怪物じゃないのか?」
カスティエルが首を横に振る。
「もっと悪い。彼は妖精王だ」
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