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第6話

それから一週間が過ぎた。 カスティエルからは何の連絡もない。 「キャス、俺だ。 何でもいいから電話して来い!」 ディーンがブスッとして通話を切ると、サムが困り顔で言った。 「ディーン。もう27件も留守電残してるんだよ? それにこっちからはスマホが繋がってるみたいな状況だけど、妖精の世界にスマホがきちんと繋がっているか分からないし。 どっちかっていうと繋がって無い方が正しいよ。 キャスなら大丈夫だ。 なんたって妖精は天使に逆らえない!」 ディーンは椅子に凭れると、ダンっと足をテーブルに乗せる。 「サミィちゃんは呑気なヘラジカの妖精ですね~。 お前、クレアと足して二で割ったら丁度良いんじゃないねーか?」 「なっ…僕だって心配してるよ! でもさ…」 「よう兄弟。麗しい兄弟喧嘩か?」 ひょいと現れたチャーリーが買い物袋をテーブルに置く。 「買い出しして来た。 ディーンにはパイ三種類。 頭を使った時は糖分が効くからね!」 「チャーリー! 愛してる!」 「知ってる。 サムにはスムージー三種類。 ガブ飲みして気分転換しなよ!」 「チャーリー、ありがとう」 チャーリーは「どういたしまして!」と言いながら、袋からお菓子を次々と取り出すと、パソコンを開く。 「実はさ、この前のイベント大会で友達になった人から買い物中に電話があって、妖精王の噂を聞いたらしいんだ。 詳しいことはメールしてくれるって」 「マジか!?」 ディーンがチャーリーの右隣に座る。 サムも椅子を持って来てチャーリーの左隣に陣取る。 チャーリーがパチパチとキーボードを叩きながら言う。 「彼は信用出来る人よ。 普段はコロンビア大学で哲学を教えている教授。 講義で使おうとして初めてプレイしたゲームがファンタジー設定のRPGだったの。 そこからファンタジーゲームにどハマりして、あらゆるゲームから古代の文献の収集やまじないの研究までしてる一流のファンタジーオタク。 あ、ほら出た」 画面には『敬愛するローレルの女王様へ』と表示されている。 「また女王様やってんのか!」 呆れたように言うディーンを無視して、チャーリーが文面を読み上げる。 『女王様が妖精王の情報を集めていると聞いてご報告致します。 先日、私の魔術仲間でユニコーンオタクの者がユニコーンと直接話がしたくなり、まじないの方法を入手し、まじないを決行致しました。 ところがまじないは失敗し、妖精のバンビを召喚してしまいました。 しかしバンビは良き子供で、ユニコーンの事を知っている限り教えてくれました。 するとバンビはユニコーンの話が終わると、今、ユニコーンも自分も妖精達みんなが大変なんだと言い出したのです。 夜の時間が少しづつ長くなっていて、いつか暗闇のままになってしまうのでは無いかと皆怯えていると言うのです。 何でも妖精の国には妖精王がいて、王族は王族同士で婚姻をするのが決まりなのですが、妖精王は先の妖精王が決めた実の妹である許嫁を嫌っております。 ちなみに王族の男女は見た目のことだけであって、王妃と認定されれば男性の姿をしていても問題無いとのことです。 そして先の妖精王が亡くなり妖精王を継いだ時に、妖精王は許嫁とは結婚しないと宣言しました。 しかし親の妖精王が決めた許嫁以外、妖精王の王妃になれる者はいないと弟二人ともう一人の妹が説得したところ、妖精王は激昂し、弟二人を惨殺し、妹と許嫁である妹を幽閉し、王妃は自分で見つけると言って旅立ってしまいました。 妹も許嫁の妹も弟達が惨殺された時に深手を負い、あと僅かの命だそうです。 王族が死に絶えると妖精の国は暗黒に覆われ、消滅するらしいのです。 ですがバンビもそういう噂をバンビ仲間から伝え聞いただけで、大人には恐ろしくて確認していないと言っておりましたので本当かどうか分かりません。 私はまるでシェークスピアではないかと笑ってしまいましたが、バンビは真剣でした。 まあ、お伽噺が一つ増えたとでもお思い下さい。 それと妖精王に関してお伽噺がもう一つ。 妖精王が何らかの理由で眠りに着いた時、妖精王を起こせる者は王妃しかいないのだそうです。 白雪姫の話はこれが入れ替わって人間界に伝わったとバンビは主張しておりました。 以上、お伽噺ばかりで女王様が退屈していないか心配しておりますが、お役に立てば幸いです。 貴方様の忠実なるしもべ赤枝の騎士より。』 しーんと静まり返る中、口火を切ったのはサムだった。 「チャーリー…オタクって凄いんだね…。 一瞬信じそうになったよ…」 ディーンがあははと笑う。 「自分だって連続殺人犯オタクの癖に! ジェフリー・ダーマーについてチャーリーに語ってやれよ!」 ムッとするサムにディーンが続ける。 「それよりバンビちゃんの情報が正しかったら、地下にいる妖精王はとんでもないヤツってことになるぜ? 弟を二人殺して妹達…一人は許嫁を監禁してるんだ。 妹達が弱ってるってことは、妖精王に半殺しの目に合わされたってことだよな? 許嫁が嫌だからってそこまでするか? 第一、前の妖精王が決めた許嫁しか王妃になれねーんだろ? だったら受け入れるしかねーじゃん。 そんでもって愛人をわんさか作る! 平和的解決ってやつ!」 その時、チャーリーがバンッとテーブルを叩いて立ち上がった。 「ディーン…キャスが言ったこと覚えてる? 妖精王を傷つけられるのは、妖精王よりも強力な血縁者だけだってこと。 でも親である妖精王は亡くなっているから、妖精王を傷つけられる存在は誰もいない…。 じゃあ何で地下にいる妖精王は血塗れで倒れているの? もしかしたら妖精王じゃないんじゃない!?」 「そうか!」と言ってサムも立ち上がる。 「キャスはこうも言ってたよね? キャスを含めた天界の天使達も、怪我をした妖精王を見たことが無いって。 それにキャスは最初からあの男を妖精王だって言ってたけど、どうして妖精王だと分かったのかは説明してくれなかった…」 「あの衣装よ!」 チャーリーが頬を紅潮させて言う。 「キャスは妖精王は純金と自然の鉱物しか身に付けられないから、鉄の鎖で繋いだって言ってた! 妖精王の力を封じられるってね。 キャスは天使だから妖精を見間違えることは絶対無い。 でも王族に近いような身分の高い妖精が、純金と鉱物のアクセサリーで身を包んで地上に遊びに来てたとしたら!? 妖精の気みたいのを放ってるヤツが純金と鉱物で飾り立ててたら、キャスだって間違えるんじゃない?」 「キャスは間違えたりしねえ」 ディーンの低い声が響く。 「キャスは妖精は天使の系列だって言ってただろ? キャスはチャーリーを助けようと珍しく焦ってた。 それに妖精の世界を早く調べたがってた。 だから何で地下のアイツが妖精王なのかなんて、説明してる暇が無かったんだよ!」 サムがディーンに向かい、穏やかに話し出す。 「ディーンの言うことは理解できる。 きっとディーンの言うことは正しいよ。 でもさ、万が一地下のアイツが妖精王じゃなくてただの妖精だったら、このままじゃ死んでしまうかもしれない。 ディーンだってスマホのカメラ越しに血塗れのヤツを見ただろ? あの出血じゃ妖精だからって保たないよ。 しかも一週間も放置してるんだし」 「だからってどーすんだよ?」 「助けるのよ!」 チャーリーがディーンの腕を掴む。 「きっと感謝して妖精の世界の話をしてくれるわ! あー楽しみ!」 ディーンがケッと言って「オハナシじゃなくて妖精の世界に連れて行って貰う気なんだろ」と言い捨てる。 「それはその…」と、しゅんとするチャーリーの肩をサムが抱く。 「でもさ、この賢人の基地にも、妖精王や妖精の王族について記述されている本は一冊も無かった。 もし、妖精王達の話が聞けるなら貴重な文献を作成できる! こんなチャンスは二度と訪れないよ、ディーン!」 ディーンは天を見上げるとため息をつく。 そして諦めたように言った。 「キャスは絶対に地下の監禁部屋に近付くなと言った。 だから遠目から様子を見るだけだぞ」 チャーリーとサムがハイタッチをした。 地下の監禁部屋は静寂に包まれていた。 ディーンとサムは銀の銃弾が入った銃を構えている。 チャーリーは鉄の棒だ。 「いいか。 書棚を開けて中を見るだけだ。 それ以上一歩も入るなよ」 チャーリーとサムが頷く。 ディーンとサムで書棚をそっと開く。 三人がスマホのカメラ越しに中を覗く。 そこには一週間前と変わらず、血塗れの男が横たわっていた。 チャーリーが囁く。 「ねえ…血が乾いてない。 あれから一週間経ってるのに…おかしくない?」 次の瞬間、鉄の手錠と鉄の鎖が自然と引きちぎれ四方に飛び、ディーンとサムとチャーリーは壁に叩きつけられた。

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