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兄と幼馴染_參
正吉が平八郎に甘いのは幼き頃からだ。
将吾と平八郎は武家の出であるが、正吉は薬種問屋の息子であった。
武家同士ともあり、もともと将吾とは仲が良かったのだが、正吉とは出会いは違った。
幼き頃のことだ。団子を食べすぎてお腹を痛くして蹲って泣いていた平八郎に、
「どうしたんでぇ」
と声を掛けてきたのが正吉だった。
「おなかがいたいの」
「そうかい。じゃぁ、ウチにきな。よくきくくすりがあっからよ」
もう泣くなよと懐から手拭いを取り出して涙を拭ってくれて、手を繋ぎ家へと連れていってくれて、薬を貰い暖かい部屋で休ませてもらったお蔭ですっかりよくなった。
出されたお饅頭を平らげた時には、「もうでいじょうぶだな」と笑われ、恥ずかしいと思いつつもなんだか嬉しかった。
送っていくよと手を握りしめられ家へと向かう。彼ともう少し一緒にいたいと思っていたので、また手を繋いで歩けることが嬉しかった。
「おめぇ、おぶけさまなんだな」
立派な門を見上げて、
「じゃぁ、けぇるから」
「まって、おれはへいはちろうっていうんだ。おぬしは?」
「まさきち」
「そうか。まさきち、またな」
手を振って見送れば、それに応えるように正吉が手をあげる。
それからというもの平八郎は将吾と共に正吉と遊ぶようになった。すっかり仲良くなった三人は身分など関係なく町中を駆け巡ったものだ。
大切な竹馬の友だ。誰かの身に何かあればすぐに飛んでいく、落ち込んでいれば傍にいて慰めてくれる。
ずっと仲良くできたらいいなと、正吉を見れば、口角を上げ頭を撫でられた。
正吉にとって、自分は今だ手のかかる童のようなものなのだろう。
それに関してはもやもやとするものがあるが、甘やかしてくれと心がほっこりとするのだからしょうがない。
いつの間にか寝ていたようで、起き上がると隣で正吉が寝ていた。
「正吉、起きよ」
身体を激しく揺さぶると額に手をやり唸り声をあげる。
「うう、もうちょっと優しく起こせねぇのかよ、おめぇは……」
うっすらと目を開ければ、すぐ近くに平八郎の顔がある。
「もう酉の刻だぞ」
「なんでぇ、もうそんなか」
酉の刻(17時~19時)とはおもわなかった。まだ完全に目覚めておらず、のろのろと起き上がり這いながら布団から出る。
「あ……」
片手で頭を押さえたままの正吉に、
「お主、相変わらず寝起きがわるいな」
と呆れた様子で言われた。
「はぁ、おめぇの寝顔を見てたら、俺も眠くなってよ」
まだ少し眠そうな正吉の、両頬に手を添えて動かす。
「なんだぁ」
「起きろってね」
変顔にして、けたけたと笑う。
遊ぶなと額を小突かれて頬から手を離した。
「さてと、そろそろけぇるわ」
見送ろうとするが、そのままでいいと立ち上がる。
「そうだ。今度、将吾の所に酒をもっていこうぜ」
「うん」
与力や同心は町奉行所に近い場所に屋敷を与えられており、将吾は使用人と共に住んでいる。
この頃、三人で集まるときはもっぱら将吾の屋敷でとなっていた。
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