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兄と幼馴染_漆

 もしかすれば心の奥までは幻妖に囚われてはおらず、呼べば声が届くかもしれない。 「兄上っ」  懸命に晋の心の奥に届くようにと声を掛けるが、思い虚しく晋は平八郎の下帯を外した。 「そんな……」  雄の部分を晒されて、それを舐めるように晋が見る。  望まぬことをしようとする晋に対し、平八郎は胸が苦しくて涙が出そうだ。 『オ主ノ此処ガ我ニ触レテ欲シイトイッテオルゾ』  先端を晋の指に押され、身体が甘く痺れてしまう。 「くっ……」 「どうれ、もっと気持ち良くしてやろうな」  手で包まれてそれを擦りあげられる。 「ひゃ、あ、あっ」  与えられる刺激と快感にたえる為に足を閉じようとするが晋の手がそれをさせない。  そこに玉砂利を踏む音が聞こえ、荷物が落ちる。  はっとそちらへ顔を向ければ、正吉が駆け込んでくるところだった。 「何やってんでぃっ、晋さん!」  その表情は怒りに満ちていて、黒い霧がそちらへと向かい漂う。 『ハッ、平八郎ワ我ノ物。貴様ハヤラヌ』 「おやめください、兄上! 正吉、見ないでッ」  我慢できずに流れ落ちる蜜がマラをこすりあげる度にくちゅくちゅと音をたてる。  正吉にこんな情けない姿を見せたくなくて必死で晋の手から逃れようと体を揺らすが、その度に身体が刺激されて余計に体と気持ちが高ぶりだして涙が流れる。 「いやぁぁ……」 「やめろ!」  にやにやとしながら乳首を摘まむ晋に、その行為をやめさせようとその腕を強い力で掴む。 「苦ゥ」  力負けをし手を離してしまった晋が憎悪の籠った眼を正吉へと向ける。 「これ以上、平八郎が嫌がることをすんじゃねぇ」  平八郎を奪うように晋から引き離し、自分の背へと隠す様にその前へと立つ正吉だ。 「後で身体を鎮めてやらぁ。ちぃと待ってな」  そう言うと平八郎の腕を縛り付けていた帯を解き、乱れていた身なりを整えてくれた。 「ありがとう、正吉」  震える手でぎゅっと正吉の着物の袖を掴んで礼を言う。  平八郎の頭を軽くぽんと叩き笑みを見せた後に脇差を抜き晋に向かって構えた。 「なっ」  脇差の刃を向ける正吉に晋は目を見開き、徐々に怒りを露わにした。 「待って、正吉! 兄上は幻妖に囚われておるのだ」 「そうかい。なら手加減はできねぇな」  その言葉に晋がゆらりと立ち上がる。 『手加減? 素人ノ分際デ、片腹痛イワ』  本差に手をかけ、一気に引き抜く。 『我ニ勝テルト思ウタカ!』  どろりと黒い霧が晋からあふれ出て覆うように広がる。 「兄上っ」  その姿を見て平八郎は力が抜けてしまいその場にヘタりこんでしまう。 「平八郎、時間を稼ぐ。おめぇは八重桜で晋さんを斬れ」 「無理だ」  足がガクガクして歩けない。  這いつくばうように二人の傍から離れようとする平八郎に、正吉が何かを言おうとしたその時。晋の鋭い一撃が正吉に襲い掛かった。 「正吉!」  斬られる。そう思いぎゅっと平八郎は目を閉じれば、キンと刀がぶつかり合う音がする。  間合いが開き互いに刀を構える。その構えは同じ流派のものだった。 「その構え、お主、まさか!」 「……十二の時に輝重様から頼まれたのよ」  一体何をだ?  父親は正吉に何を頼んだというのだろう。 「先々、平八郎にはお主が必要になるだろうからって。あんときゃその意味はわかんなかったが今なら解る。八を受け継ぐアイツを守ってやってくれとな」  初耳だった。父親が自分の為にそんなことを頼んでいたなんて。 『何故、貴様ガッ』 「輝重様は俺と平八郎の気持ちをよく解ってくださっていたぜ?」  晋はその言葉の意味に気がついたようだが平八郎にはサッパリわからない。 『フザケルナ!!』  憎しみのこもった眼を向け晋が力を込めた一発を振り下ろし、それを受ける正吉の脇差の刃とぶつかりあい刃音が響く。  ぎりぎり刃が合わさったまま互いに力を込めるが力勝負は正吉の方に分があり晋の刀を払う。  払われて少しよろめきはしたが直ぐに体勢を整えて素早い動きで斬りかかってくる晋に正吉はその刀を受け止めて弾く。  このままでは二人ともただではすまないかもしれない。  それでなくとも晋をとらえた幻妖が更に増幅し正吉まで囚われそうになっていて。怖い程の殺気を感じる様になった。 『貴様ナドォォォ』  斬りかかる刀からも幻妖が噴きだし、正吉の視界を奪う。 「なっ」 「正吉!」  視界を奪われた正吉が手で黒い霧を払おうと動かすが、その隙を狙うように晋の刀が振りかぶる。  それを何とかしのぐが体勢を崩してしまいそのまま片足をつく。 『モラッタワ』  口角を上げ正吉に斬りかかる晋に。 「うおぉぉぉ、兄上ぇぇぇッ」  鞘から刀を抜いた平八郎が気迫のこもった声をあげ晋めがけて突進する。 『ナ、平八郎』  正吉を斬る寸前、刀は晋に触れること無くかわされる。  それでも刀を振るう平八郎に、晋が愕然とした表情を見せた。 『ソンナニ、ア奴ガ大切カ』  隙だらけの腕では晋には全く歯が立たず。簡単に腕を取られてしまい締め付けられる。  黒い霧が正吉から自分の方へと向かい、二人を覆い尽くしていく。 「平八郎!!」  正吉の叫び声が聞こえる。 「すまぬ、兄上。俺は……」  平八郎が告げた言葉に、『ソウカ』と呟く声が聞こえ。  八重桜が晋の心臓を貫いた。  その瞬間、桃色の光がまるで花弁のように舞い、幻妖を消し去った。 「見事」  そう晋は言うと平八郎の髪を撫で、そのまま崩れ落ち。  それを抱きしめた平八郎はすまぬと何度も言いながら涙を流した。

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