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恋_肆

※※※  はじめから面倒見の良い男だった。それが今ではそれに拍車がかかっていた。  優先的に自分を甘やかしてくれる忠義の隣は実に心地よく、頼りきってはいけないと思いながらも離れられずにいた。  大きな手は暖かく包容力がある。それに触れていると幸せだと思い始めるようになっていた。  のんびりと茶を飲んで話しをしたり将棋を打ったりする時間がこんなにも楽しいなんて思わなかった。  だからかもしれない。  今まで口にすることすら怖くて出来なかったことを忠義に聞いてもらおうと思ったのは。  途中、言葉を詰まらせてしまうこともあったが、全てを話し終えてた。 「そうか。辛かったな、晋さんも」  平八郎に対してしてしまったことは許されない。だが、それに対して後悔し反省しているのだ。これ以上自分を責めないでと忠義が晋を抱きしめた。 「俺なんかより平八郎の方が辛いだろう」  兄弟にこんな目にあわされるなんて思いもしなかっただろう。 「確かにそうかもしれないな。晋さんがそんな態度をとっているうちは」  忠義のその言葉に胸が痛んだ。  あの日から平八郎を避けている。顔を合わせたくないだろうと勝手にそう思って、実際は平八郎の本当の心を知るのが怖くて逃げ回っているだけなのだ。  自分勝手な思いが、また平八郎を傷つけている。 「そうだな。このままでいてはいけないよな」  やっと自信の心に決着をつける決心がついた。 「平八郎と話をするよ」  そう真っ直ぐと忠義を見れば、 「もう大丈夫そうだ」  と、そっと晋の胸へと触れた。  目に迷いが無く、晋に心の底から安堵しているのだろう。 「あぁ。お主のお蔭だ。感謝している」  あの日、前に進むきっかけをくれたのは忠義だ。晋はその手の上に自分の手を重ねて握りしめれば、忠義が嬉しそうに笑った。  忠義が帰った後、晋は平八郎の部屋を訪ねた。  それを歓迎するように平八郎は晋を部屋に招き入れてくれた。  はじめはぎこちなさを感じたが、晋の謝罪の言葉の後、互いの胸の内を打ち明けて。戻れないと思っていた関係は、呆気なく元通りとなった。  その夜、晋と平八郎はずっと話をし一緒に寝た。  今も愛おしい存在であることは間違いないのだが、それは兄弟としてという気持ちへとかわりつつあった。

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