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恋_伍

<恋心>  平八郎と仲直りをすることが出来た。一生、合わせる顔がないと思っていた気持ちを変えてくれたのは忠義だ。  どんなに彼の存在が自分の支えとなっただろうか。感謝してもしきれない。  報告がてらお礼にと美味いと噂の酒を手に忠義に会いに向かう。  道場へ続く門の前。男女が仲睦まじく会話をしている姿を見つける。  あれは忠義と可愛い娘だ。大きな体を丸めて照れている姿はよほどそのおなごに惚れているように見える。  好きなおなごがいたことなど知らなかった。もうよい年なのだ。そういう相手がいてもおかしくはない。  呆然と二人を眺めていると胸に鈍い痛みを感じる。それもこの痛みはつい最近味わったものに似ている。  まさかと自分の胸に手を押し当てると、胸の鼓動が激しく波打っていた。  きっと弟のように思っていた忠義が、知らない所でおなごと仲良くしているのがつまらないだけ。  そうに違いないと無理やり納得するが、気が付いている。本当は違うということを。  忠義に対する恋心はあまりに育ちすぎて無視できなくなっていた。  癒してもらった傷は、その本人に再び傷つけられた。それも平八郎の時よりも深くそして大きい。絶望的な思いに囚われる。  踵を返し、もと来た道を歩き始める。  きっとその恋はうまくいく。優しくていい男なのだ。好意を持たれて嬉しくないと思うおなごがいるものかと。  このまま恋が上手くいき、忠義から「想い人なんだと」紹介されても、笑って祝ってやれないだろう。それところが、嫉妬丸出しの顔をしてしまうかもしれない。 「……嫌だ、誰にもやれぬ」  そう、これが本心。だけど叶うことない願いなのだ。 「晋さん」  と背後から肩を叩かれ、振り向いた。 「た、忠義ッ」 「どうした? うちに来ようとしてくれていたんじゃないのか」  首を傾げて晋を見る忠義のその手を払いのけて歩き出す。  そんな態度を取る晋に、どうしたのかと忠義が後に続いて歩きだし、 「何かあったのか?」  と尋ねてくるがそれを無視して黙って歩く。  もうこれ以上ついてこないで欲しい。だから振り向くことすらしないで真っ直ぐ前だけを見る。  だがそのまま行かせてくれる気はないようで、忠義のがっちりとした腕が腰へとまわり晋を引き止めた。 「な、離せッ!」  顔を忠義の方へと向けると少し怒った表情を浮かべていた。 「嫌だ。何も言ってくれずに無視されたままなんて」  人目のある所で揉めたら目立ちそうだ。そう思った晋は向こうへ行こうと人けのない場所を指さす。 「わかった」  腰から腕が離れその代わりに手を繋がれる。黙って引かれるままに人けのない所へと移動する。 「で?」  手が離れ、今度は進路をふさぐように両腕をつく。近い距離にある忠義の顔を見ぬように顔を背け、 「お主がおなごといるところを見たぞ」  そうぽつりと言う。 「そうか、見ておいでか」  真っ赤になりながら頭をかく姿に絶望的な気持ちとなる。

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