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嫉心_貮

※※※  輝定の使いで天安寺の住職に文を届け空玄と幻妖のことで情報を交換し合い、その帰り道に持ち場の巡回中である将吾と岡っ引きの弥助に出会う。 「あれ、今日は正吉さんと一緒じゃねぇんですね」  弥助にとっての自分はいつも正吉と一緒に居ると思われているのか。  正吉は診療所だと弥助に言えば、将吾がからかうように「正吉は平八郎の保護者だからな」と言う。 「え、あ、別にあっしはそんなことを思っては……」  その慌て振りようから弥助もそう思っていたのだろう。 「お主らなぁ。俺はいい歳をした男だぞ?」  ムッとしながら言えば、将吾はそうだなといって笑い、弥助は苦笑いをする。 「覚悟せい」  握り拳を振り上げて殴るそぶりを見せれば、怖い怖いと近くにあるお茶屋の娘御の後ろへと身を隠した。 「あらあら、はしゃいじゃって」  団子屋の娘はお盆で口元を隠し、くすくすと笑う 「娘、お茶と団子を三つ頼む」 「はいよ」  平八郎は団子の言葉に反応し、 「まぁ、許してやろう」  と振り上げた拳をおろす。 「ありがてぇ」  将吾と弥助が床几(しょうぎ)へと腰を下ろし、平八郎もそれに倣う。  正吉と一緒の時は背中に寄りかかり楽をするのだが、今日はその背中が無く、少し寂しいなと思いながら団子を待つ。  すると、 「こんな所で何をしておる、磯谷」 「これは、青木様。お役目、ご苦労様です」  青木家は旗本であり、青木正純(あおきまさずみ)は北町奉行所の与力である。伊藤家の近くに屋敷を構えており、晋と同い年だ。  捕り物でもあったのか、青木は羽織袴に陣笠をかぶり、手には十手が握られている。その後ろには配下の同心、縄で繋がれた下手人とが続く。 「流石は榊の」  小馬鹿にしたように鼻で笑い、今、気が付いたとばかりに平八郎の方へと顔を向ける。 「これは伊藤家の……」  笑みを浮かべて挨拶をする青木だが、平八郎のことをよくは思っていないのは表情から見え見えだ。 「正純さん、お久しぶりです」  挨拶をし、将吾達に行こうと促す。すると平八郎の背中越しに、 「付き合う相手はお選びになさった方がよろしいかと」  と、しかも将吾にも聞こえるに言う。 「なっ」  平八郎が振り返ると、青木がほくそ笑む。それを見た瞬間に鳥肌が立った。  本当に気持ちの悪い男だ。早く傍から離れたくて、平八郎は店を後にした。  川辺の道を歩きながら、先ほどの遣り取りに平八郎は頭にきていた。 「なんて奴だ」  将吾の袖を掴んで握りしめる。その手の上に大きな手が重なった。 「すまんな。お前まで巻き込んだ」 「どうして将吾が謝る! 悪いのはあ奴だろう」 「実はな、青木様は榊様を目の敵にされていてな」  将吾の上役であり南町奉行所の与力である榊秀次郎(さかきしゅうじろう)と青木は同い年で、何かと張りあおうとしているそうだ。 「しかも榊様は青木様のことを全く相手にされていないのだ」  それが余計に癪に障るようで、榊の配下である同心や岡っ引きに当たり散らしているのだという。  上役だというのに器の小さき男だ。恥ずかしくはないのだろうか。 「小さき男よ」 「はは、その通りだな」  そう笑う将吾に、平八郎は誇らしく思う。  けしてその人を恨むことなく、笑い飛ばしてしまえるのだから。 「将吾、何かあれば言うのだぞ。力になるから」 「おう。剣術も学んでいることだし、その腕を頼りにせねばな」 「ぬ、お主、それは嫌味か!」  晋にへなちょこと怒られ、それでも毎日続けている。  ほんの少しだけ、剣の扱いもましになったという程度の腕だ。 「いやぁ、頼りにしているよな、弥助」 「はい」  笑いながら将吾が平八郎の頭を乱暴に撫でる。 「うぬぬぬ……」  いつか二人をアッと驚かせてやりたい。 「本当、頼りにしてる」  ふ、と、真面目な顔となり、平八郎は急に不安にかられる。 「将吾……」 「さてと、弥助、行くぞ」 「はい。それじゃ、あっしらはこれで」  と弥助が頭を下げる。 「あ、あぁ。またな」  二人の後ろを姿を見送り、何事も起きませんようにと祈った。  数日後。その願いもむなしく、将吾が怪我を負ったと弥助から知らされることとなった

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