29 / 71
嫉心_陸
そして、見舞いにきたと顔を見せれば、将吾が責めるように正吉を見る。
「俺じゃねぇよ。弥助だ」
「あ……、そうか、口止めをしておくべきだったな」
正吉と同じことを言う将吾に、単刀直入に聞く。
「青木殿か」
「そうだ。だから言いたくなかったのよ」
話せば誰にやられたかは直ぐにばれる。故に余計に心配をかけると思い、口止めを頼んだそうだ。
「当たり前だ。正純さんを見た時から、嫌な予感がしていたんだ」
将吾もいつかこうなるという予感があったのではないだろうか。だから平八郎の大したことない腕でも、頼りにしていると 言ったのだはないだろうか。
「まぁ、でもさ、正吉が治療してくれているから大丈夫だ」
それに俺は丈夫なんだと、からからと笑う。
身体も心も痛いのは将吾の方なのに、平八郎を励まそうとしてくれる。それが切なく、目頭が熱くなるが、泣くまいとグッ と涙をこらえる。
「そうだよな。正吉が治療しているなら大丈夫だな」
「そうでぇ、俺に任せとけ」
そう胸を叩き、平八郎の頭を撫でた。
「正吉」
「治してやっからよ」
と治療をするための準備を始めた。
「平八郎も手伝えよ」
「あぁ」
包帯を解くと痛々しい傷があらわれ、それを見た平八郎が驚いて口元を手で覆い隠す。
「切り傷、ここには痣が。なんて酷い真似を」
「まったくだぜ。おい、平八郎、ぬるま湯を貰ってきてくれ」
傷を見たまま動かない平八郎に、正吉が手を強く握りしめる。
「あ、まさきち」
「平八郎、ぬるま湯」
「あ、あぁ、わかった」
平八郎は桶を持つと部屋を出る。下働きの女にぬるま湯を作ってもらい部屋へと戻る。
正吉は将吾の傷口に陣中膏(ガマの油)を塗りつけているところだった。
「くっ」
我慢強い将吾ですら思わず声が出てしまうなんて、余程に痛いのだろう。平八郎が傷を負っている訳でもないのに痛そうな顔をしていた。
「平八郎、なんでおめぇが痛そうな顔してんだよ」
と正吉に言われ、
「だって、正吉よりも我慢強い将吾が唸るほどだぞ」
そう正直に答える。
「俺も我慢強ぇと思ってたんだがなぁ」
額を指で弾かれ、何をするんだとそこを押さえれば、ニヤリと笑う。
「まさか、俺に対して言っているのか」
何かと正吉や将吾に頼るから、それを言いたいのだろうか。
「それ以外になにがあるってぇンだ」
なぁ、と、将吾を顔を見合わせ、その通りだと笑う。
「ぬぬ、そんなことをいうヤツにはこうだ!」
ぬるま湯で手拭いを絞り、まだ浅く残る傷の上を乱暴に拭いた。
「いてぇ、平八郎、俺は怪我人だぞ」
「うるさい。仕返しは正吉にやれ」
自分では正吉に敵わないので将吾に任せ、平八郎は身体を拭きはじめた。
ともだちにシェアしよう!