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父はドM野郎:2
母のパソコンは父の名前がパスワードになっていて簡単に中を見れた。
ブックマークしている料理サイトのレシピを軽く確認しながら「夫用」という名前でまとめられたリンクを見つける。
どうやらアダルトショップへのリンク集やエッチな技の数々を紹介しているサイトをチェックしているらしい。
閲覧履歴を見ると頻繁に訪れているサイトがあるので行ってみる。
自分の親の性癖など知らないでいたいところだが、夜な夜なハードになっていく父のオナニーが怖かった。
母は父がおかしくなることなど望んでいないと言ってやれば止まるんじゃないだろうか。
悲しみを誤魔化すためとはいえ、スッキリとした精悍な見た目の父から出てくるとは思えない、喉の奥から吐き出される音は恐怖しかない。喘ぎというよりも獣の咆哮。歯を食いしばって耐えろブタと思わず罵りたくなる汚い声。やめさせるか、抑え目にしてもらいたい。近所にバレたら外を歩けなくなる。
母が頻繁に見ていたページは、昔ながらのツリー形式の掲示板だった。
会員だけが見ることができる掲示板だがブラウザにパスワードを記録してあったので、俺が入力しなくても掲示板の中に入れた。
掲示板をざっと見ると母と父の名前がそこここにあった。
母が死んだ数日後に追悼と書かれたスレッドに今までの母の思い出や武勇伝を書きつづっていく人たちがいた。
誰も馬鹿にしたところはなく真面目で淡々と母が偉大だと称えている。
俺は母が他人に褒められているところを見たことがない。
父はもちろん何かにつけて母を褒めるが、母自身が父からの言葉を社交辞令として受け取って喜ばない人だった。
テレビを見ながら芸能人やコメンテーターに大げさだとツッコミをするようなタイプだ。
過去の母らしき人間の書き込みを見ると俺の知る母と雰囲気が違う。
追悼スレッドの書き込みを読んだなら母はきっと冷めた目ではなく照れ笑いを浮かべて大げさだと口にするだろう。
俺は今まで母のことをよくわかっていなかった。
本当の母の姿を思い描き、泣きそうになりながら、あばかれた受け止めきれない夫婦間の行為に俺は頭を悩ませることになる。
父と母の出会いがこの掲示板であり、この掲示板がSとMのためのものだと読んでいればわかる。
M男である父が母に頼み込んで結婚して、円満な夫婦であると同時に最高の性的パートナーだったらしい。
ただ母は意外にもSだったわけではないという。
母はカフェでバイトしながら看護学校に通っていたという。
その中で変わった性癖の人間に数多く出会う。
彼らは誰もが悩んでいた。
母は自分の兄に相談し、SとMの人間用の交流掲示板を作った。
そして兄妹で掲示板を管理することにした。
カフェで悩みを相談してきた性的マイノリティの人間に語る場所を教えて気持ちを解放させる。心の安定こそが健康への近道だ。看護学校に通っているからこそ、母は精神と肉体の健康についてシビアな考えの人だった。不健康な生活は許さないという意味においては、ドSと言っていい。
父は家の期待、会社の期待、そういったものに抑圧されていた。
母は嗜虐という手段でそれを解放した。
ふたりは最高の夫婦だった。
ストレス解消の方法として普通のことだと母は父を調教していったらしい。母は普通よりも上等の部類に入る成功者な男が蔑まれ辱められなければ快感を得られない人間に変えられていく姿を掲示板を利用している人間たちに見せつけた。
父はショーのメインキャストのような愛され方をしていた。
母は主催者で、父は演者。
掲示板では父の写真や動画で盛り上がっている。ときには直接父の醜態を見るために母は、第三者の男をプレイに参加させていたらしい。
父の取引先の相手や同僚もこの掲示板を見ているのだと追悼掲示板の文面から分かった。
母への感謝がつづられた最新の書き込みの後に父を心配する内容が書き込まれていた。
夜だからかリアルタイムで数人が連続して父に対する不安を書いた。
気持ちとしては俺も同じだが勝手に大人たちの集まりに口出しはできない。
息子とはいえ俺は彼らの仲間じゃない。覗き見ているだけで、変態趣味は守備範囲外だ。
しばらくすると父を強姦する会が掲示板内で発足した。
書きこむこともなく彼らのやりとりを俺は見つめ続けていた。
放っておいたら父が自殺しかねないから、部屋に押し入って犯してやろうと相談していた。
彼らの親切心はたぶん正しい。
父は日に日におかしくなっている。
外では普通の顔をしている分だけ、夜中の乱れようはすごい。
鬱屈しているんだろう。精神のよどみを感じる。
父のストレスを解消するための強姦はある意味優しさだ。
けれど、母がそれを望むだろうか。
掲示板の中で母は父のものだと書き込んでやめるように訴える人もいた。
父がドM野郎だと知っても俺にとっては精悍で男前で仕事ができる大人の男だ。
たとえ父が悦ぶのだとしても母ではない相手にどうにかされて欲しくない。
子供心に勝手なことを思ってしまう。
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