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俺とロデオマシーン:2

 塾に通いだして息子の帰りが遅い。  そのことに不満があるわけではないが、家に帰ってきて玄関が暗いと気分も暗くなる。    リビングのテーブルの上に惣菜を買ってくるから作らなくていいというメモが残されていた。    一人暮らしの経験があるので料理が作れないわけではない。  それでもキッチンは亡くなった彼女の領土という気がして入りにくい。  息子がこちらの気持ちに気づいているかはともかく料理を作ってくれることが多い。  軽く部屋掃除でもしようかと思って、視線はロデオマシーンに向けられた。    腹周りが気になるのだと言い訳をしてロデオマシーンに近づく。    息子と一緒に居れば性的な欲求を満たすために使って、トレーニングになっていない気がする。  普通の使い方もした方がいい。    そう思いながら俺はワイシャツと下着をつけたままスマホを手に持ってロデオマシーンに乗った。  リビングを覗いたらすぐに見える位置にマシーンを移動させた上で、スエットに着替えることもしていない自分がトレーニング目的なんて嘘だ。自分自身すら騙しとおせていない言い訳を頭の中で重ねながら息を荒くさせる。    玄関の鍵はちゃんと閉めただろうか。    もし、万が一誰かがやってきたら、電源スイッチも押していないロデオマシーンに座って興奮している異常な男が、俺の本性が、バレてしまう。想像だけで背筋が痙攣した。自分がどうしようもない変態なのだと思い知らされる。俺の本質はどうしようもなく、低俗だ。    誰かに自分の乱れた姿を見てもらいたがっている。    あるいは誰かの目に触れるかもしれないという理由で息子に怒られる。玄関の鍵ひとつで頭の中がとろけそうなほど快感の波が押し寄せてくる。内股がピクピクと震える。射精感を訴える体の動きに笑ってしまう。快楽に対してあまりにも俺は貪欲だ。    自分の醜い部分をさらけ出すと安心する。    ダメなことができる時間に安らぎを感じた。  褒められるはずのない自分の性癖を家の中で解放する至福。  職場であったこと、日々の疲れ、そういったものが確実にゼロになった。    ここに居なくても息子の冷ややかな視線は俺の全身を撫でまわす。    息子の年齢の分だけ、傍にいた。息子のことはなんだって知っていた。息子が今の自分を見て、どんな反応をするのか想像できる。息子のことが分からない父親じゃない。理性なのか父親としての自分なのか、時折、息子にとんでもなく甘えて依存していると批判する自分が現れる。けれど、息子は俺が他人に手を伸ばす方が許せないはずだ。    息子の気持ちがわかるからこそ、俺は自分の行動を肯定してしまう。最低な父親だと俺を見ながら離れたり見捨てたりしない息子だと知っている。    息子につけられた貞操帯は完全に勃起はできないので射精はむずかしい。小便はコツがいるものの周りを汚すことなく出来るので、慣れてしまうと日常的につけたまま生活できる。    異常なものを息子につけさせられているという感覚が気持ちを安定させる。父親なのに息子に管理されている不自然さが堪らなく幸せだ。情けなく父親失格な姿を日常的に息子に見せてしまうことが申し訳ないのに考えると勃起する。    男らしくない姿。  父親らしくない姿。  俺らしくない姿。    それを息子はすべて冷ややかに見つめる。

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