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俺とロデオマシーン:3
スマホの振動に思わず誰からの着信かも確認せずに出た。
俺の戸惑いの空気を感じたのか「何あせってんの。どっかのおっさんのチンポでもくわえこんでる最中かよ」と不機嫌そうな息子の声。後ろからスーパーのアナウンスが聞こえてくるので惣菜を選んでいる最中だろう。
『刺身が半額になってるから買おうかって聞こうと思ってさ。なに? お楽しみ?』
「……ちが、ちがう、なにもしてない」
堂々と言葉を返せばいい。まだ何もしていないのは本当だ。頭の中で淫靡な妄想に浸っていただけで、肉体的には何も始まっていない。
『いま、どこ』
「家に、帰ってきた。帰ってきて十分も経ってない」
『ふうん? 着替えた? シャワー浴びた?』
「着替えてない」
『でも、背広とか脱いじゃってるだろ』
「……ワイシャツは着てる」
自分の姿が見えているような息子の声に心臓が痛くなるほど動き続けた。
「本当に何もしてない。これからスエットにでも着替えようと」
『はい、嘘。完全な家モードに切り替える前に一人遊びをしようと思ってただろ』
俺という人間を言い当てる息子。何も間違っていなかった。シャワーも浴びず、着替えもせず、会社から帰った名残としてワイシャツを着たままの俺を息子は分かっていた。
『新しいオモチャで頭がいっぱいの子供かよ。どうせロデオだろ』
思わず息が詰まる。
なにもかもを、見破られていた。
『いいけどさ、電源は入れんなよ。……今、まだ入れてないだろ。声が静かだし』
「まだ乗っただけだ」
『やっぱ、ロデオに乗ってんのかよ。何がスエットに着替えようとしてるんだ、嘘吐き』
カマをかけられていることにも俺は気づけなかった。
あまりにも息子が俺のことを分かっていたせいで、すぐ近くにいるような錯覚を覚える。
「電源を入れないなら、降りたほうが」
『いいよ。俺が帰るまで二十分かそこらだから、乗ってろ。動きもしないただの椅子にサカってろよ。突き上げるような振動、振り回されるような回転運動、もう何度も味わってんだから、想像できるだろ』
スーパーの中で夕飯の惣菜を吟味している息子に受ける指示としては異様なものがある。
健全な世界にいる息子から、自分勝手な欲望に浸っている俺にむけられる言葉がある、それ自体がすでに奇跡に近い。
『……あ、てんぷらの盛り合わせも安いわ。天丼にしようっかな』
どこにでもある日常的なつぶやきを息子は発する。
『ロデオに振り回されてんじゃなくて、俺に腰を突き上げられてるって想像でもいいからな。まだ、その体勢やったことないな。騎乗位っての? 母さんにスクワットさせられてたけど、あれべつに気持ちよくなかっただろ。あ、逆にそれがいいのか?』
床にくっつけたディルドに腰をおろして、上下に動かしていたことを息子はスクワットと言っている。たしかにジムのトレーニングレベルの上下運動だったので、気持ちよさよりも膝が疲れた。気持ちのいい場所にディルドのイボイボとした出っ張りをこすりつけるのではなく、見苦しい恰好をするというシチュエーションがメインだ。気持ちよくもないのに勃起したペニスは先走り液を垂れ流して床を汚した。それを彼女に責められ、叱られ、鞭打たれる。
痛い、苦しい、恥ずかしい、気持ちいいと混乱しながらやっていた。
イボが大量についた、グロテスクな見た目のディルドを肛門から出し入れしている姿を妻である女性に見られながら蔑まれる最悪の動画は、息子にも見られているのだろう。そう思うとロデオマシーンに振り回されたことを身体が思い出す。
激しい動きに玉が宙に浮くような心もとなさがあった。遠心力がかかるのか勃起したペニスは普通よりも圧がかかり、前立腺の刺激などなくても十二分に気持ちが良かった。俺の乱れる姿を息子は呆れたように横目で見ながら、勃起していた。
父親である俺の痴態に息子は下半身を反応させていた。
思い出すだけで全身が歓喜に包まれ、達してしまいそうになる。
『あ、俺が帰るまでイクなよ。レジに並ぶから切るわ』
一方的に宣言して息子は通話を終わらせた。
自分のリズムを乱れさせることがない息子らしさに甘い痺れを感じるあたり、俺はいろいろ終わっている。
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