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俺とロデオマシーン:4

 息子が帰ってきたことが、玄関の音で分かった。  鍵はちゃんと閉めていたらしい。   「ただいま~」 「……おかえり」    電源の入っていないロデオマシーンにまたがっている俺を一瞥して、息子はキッチンに向かった。  俺の状態を確認して罵ってくれるのかと思ったので肩透かしだ。完全にない物としてあつかわれていないのが、逆に残酷かもしれない。   「なに、さみしそうな顔してんだよ、変態」    見もせずに息子は言い放つ。  こちらが否定するよりも先に「腹減ってんだよ」と口にした。すねたような表情が想像できて、体の熱や置き所のない気持ちとはまた別の部分で微笑ましさを覚えてしまう。    俺はどう考えてもおかしいけれど、息子にとって父親であるという自覚は消えていない。息子にとっても俺が父親であるのは変わらないだろう。普通ではない状況とはいえ、親子関係が壊れたとは思わない。    急に息子の人格が変異したわけでもなく、息子は息子として俺に触れる。ゆがんでいて、おかしいのは今の状況なのにこれ以上なく落ち着いていて安定している気がした。日常的に非日常を味わうアンバランスさは、俺自身がいびつな人間だからか、違和感なくおさまっている。      電子レンジが動く音を聞きながら身の置き所がわからず、もじもじとロデオマシーンの上で身じろぎをする。    軽い息遣いが聞こえた気がして顔を上げると息子がいた。若干、不機嫌そうな顔だ。一緒にテレビを見ようと言ってきたことを仕事を理由にして断ったときの子供の顔だ。仕方がないと頭では分かっていても不服だからムスっと黙り込む。かわいかったからこそ、息子からの誘いを断って書斎で妻である彼女から犯されて、天井知らずの背徳感に溺れた。    かわいくて大切な息子に自分の本性を知られてはならないという緊張感は、快楽を強める。何もかもを知られてしまった今ですら、息子の昔からの表情を見ると良心が痛みつつも悦びがある。   「辛抱できないって顔しておいて、なにそれ」    息子が俺に求めていることが分からずにまばたきを無駄に繰り返す。  どんな反応をするのが正しかったんだろう。   「俺にして欲しいことを訴える頭も口もないのかよ」    息子の頭の中には今日に限らず同じ言葉があったのかもしれない。そう思えるのは、息子が面白くなさそうな顔をしているからだ。仲間外れにされた子供のよう表情。こういう顔をするときの息子はとても残酷になる。俺を悦ばせるためのサディスティックな振る舞いではなく、根っからの冷淡さが言動に出る。    酷いとか裏切られたと言ったことは思わない。申し訳なさと愛を感じる。   「さっさと俺のチンポしゃぶりたいって言えよ」    よくわからないキレ方だが息子らしい。自分が帰ってきたらロデオマシーンから降りて、自分のところに来いとそういう主張だ。勝手なことを思っていると怒る気持ちにならない。俺は息子に従う形でロデオマシーンから降りて、床に正座する。    相手が自分の息子だからか、髪の毛をつかまれて無理やりに口の中にペニスをねじ込まれても、痛いとか怖いよりも先にうれしいが来てしまう。    俺の口の中で息子が気持ちよくなってくれていると思うと身体の感度が上がっていく。普通の親子ではいられない。普通の父親の顔は出来ない。それでも、俺は俺なりのやり方で息子を満足させられるのだと思うと誇らしい。他人から見れば一から十まで狂っているのかもしれない。それこそが俺にとって快感だった。   「うまそうにチンポしゃぶってんじゃねえよ。自分の股間にもあんだぞ」    息子が地団太を踏むように足が軽く床を蹴る。   「それとも使い物にならねんねえの?」    軽蔑するように息子が俺を見下ろす。正確には俺の貞操帯のついた股間を見ている。男としての尊厳を踏みにじられている姿だ。ペニスを排泄以外に使用できない。男性器としての機能しないように制限されている。完全に勃起などしないようにおさえこまれていた。    こんなに興奮していても息子が許可しない限り俺はペニスに刺激を与えることができない。自慰による射精は禁じられている。息子の許しがなければ、達することができない。親であるのに子に完全に支配されているという異様さが俺の脳を犯していく。   「トロトロの顔して、チンポ欲しがりすぎだろ」    うなずく俺にかぶるように電子レンジが温め終わったと音を立てて教えてくれる。邪魔をされたという気持ちは表情に出ていたのか、息子が「変態っ」と馬鹿にしたように口にした。   「俺は腹減ってんだよ」    温めたものを食べたいと主張する息子。俺が自分の欲求を我慢すれば、それでいいと彼女が死んでから一人で耐えていた。それは息子からしたら許しがたいことだったらしい。これも同じだ。遠慮して自分のしたいことを口にしないことを息子は望んでいない。   「……ちんぽ、ください」    勃起している息子のペニスの先端にキスをする。お腹が空いていても息子だってこの状態で放置されたくない。それなのに俺を突き放すような素振りを見せる。俺が息子を積極的に欲しがっていないことに腹を立てているからだ。    暴力や痛みでの屈服とは種類は違うが、こちらの方がより取り返しがつかなくて興奮してしまう。    能動的に、積極的に、自分の意志で俺は息子を求めるように息子自身から指示を与えられている。自分で自分を叩いているようなものなのに酷く甘くて温かい。矛盾したものをいくつも詰め込んで窒息しそうだ。

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