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第5話【ゴリ(前編)夕方 上】
処理課の中で、最も性処理の予約が入るのは、課長であるゴリだ。
ネコ専門は二人いるが、タチ専門はゴリしかいない……そういう理由も、勿論ある。
けれど、ゴリが最も指名される理由は……彼の人となりにあった。
(突発的な依頼は、何度受けても驚くな……流石に、疲れる)
ゴリは階段を上がりながら、グルグルと肩を回す。
二十件入っていた予約も、残りは三件……予約以外にも、行き当たりばったりで処理依頼をされることもあり、ゴリは疲弊していた。
基本的に、性処理の依頼は前日のうち、明日の何時にどこで誰が誰に依頼をするのか……そういった書類を、処理課に送る。それが、処理課への性処理依頼の方法だ。
ゴリは毎日、受付開始と同時に予約が埋まる程、競争率が高い。それでいて、リピーターも多かった。
基本的には事前予約制だが、ごく稀に……当日依頼が発生する場合もある。
当日依頼は、全員ができるわけではなく……条件は、係長以上の役席者であること。
勿論、前日から入っている予約に割り込むことはできない。依頼時間に余裕があり、処理課の人間が許諾した場合にのみ、当日依頼は可能だ。
二十件の依頼を抱えている中、ゴリは当日依頼をされることも少なくない。現に、今日の当日依頼は、七件だった。
四階の会議室へ向かっている途中、ふと……ゴリは鏡に映る自分を見る。
タチを専門にしているだけあって、男なら誰もが羨むゴリの体躯は、スーツの上からでもハッキリと分かった。
短く切り揃えた茶色の髪に、三十代後半になったというのに、まだまだ若々しさが残る風貌。図体はデカいが、ゴリに対する第一印象は皆、【いい人そう】だろう。
ゴリは鏡の前で一度だけ、ネクタイを締め直す。今日だけで何度緩め、何度締め直したか……ゴリは憶えていないが。
身だしなみを整えた後、ゴリは指定された会議室の前に立ち……扉をノックする。
中から、二人の男が返事をした。
「失礼します。処理課の者です」
礼儀正しく会議室に入ったゴリに対し、中で待っていた男性二人は、泣き出しそうな顔をする。
「「ゴリさん、待ってましたよ~!」」
二人はゴリに駆け寄った途端、大きな体に抱き付く。
「ゴリさん、僕の話を聴いてくださいよ!」
「いや、まずは俺の話から聴いてください!」
ゴリは、泣き付いてきた男性二人の背中をあやすように叩いてから、困ったように笑う。
「オイオイ、一度に二人の話は聴けないぞ?」
男性二人は互いの顔を見合わせてから、どっちが先にゴリと話すかと、小競り合いを始める。そんな様子を、ゴリは笑顔で見守った。
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