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第8話【ゴリ(後編)夕方 上】
一人、会議室に残ったゴリは椅子に座り、ネクタイを締め直してから……ゆっくりと、息を吐いた。
ゴリにとって……セックスをすることは、苦ではない。毎日三十回前後のセックスをしても、ゴリは疲れを感じたことがなかった。
――ゴリが疲れ、悩む理由は……そこではない。
(俺なんかが、人様の相談になんて……乗っていいもんなのかね)
いくら課長と言えど、ゴリの業務は事務でも営業でもない。所詮は、性処理だ。
高校を卒業してすぐ、この会社に入社したゴリは、そのまま処理課に配属された。それは、ゴリ自身の意思だ。
社員の性処理をし、悩みを聴いて助言をして……それは、ゴリが望んだ自分の筈。
――けれど、ゴリには自信が無かったのだ。
椅子に座ったまま、天井を仰ぎ見る。窓から差し込む夕日が眩しくて、そのままゴリは目を閉じ、物思いに耽った。
事務仕事をしたことのない自分が、事務課の人間にできる助言なんて……本当にあるのか。
自社の商品を、プレゼンなんてしたことがない。そんな自分が、営業課の人間に何を言えるのか。
恋人がいるというのに、他の男とセックスをしている。そんな自分が、恋愛について助言する権利なんて、無いんじゃないか。
処理課の仕事は、苦ではない。けれど、これで本当にいいのか……そんな不安が、ゴリの心を曇らせる。
――その時だった。
「失礼しま~す」
会議室に、本日最後の依頼人が到着した。
燃えるように赤い夕陽が、依頼人の銀髪を、眩しく照らす。
ゴリは目を開き、会議室の入り口を見やった。
「ショタ、お疲れさん」
「お疲れ様ですっ」
本日、ゴリに入った最後の依頼は……同じ処理課の、ショタからのものだ。
処理課の業務は、【社員】の性処理。処理課の人間が依頼をすることだって、できてしまう。
ショタはゴリに近寄り、人懐っこい笑みを浮かべた。
「ゴリ課長に依頼するの、本当に激戦で大変だったんですよ~!」
「お前さんも物好きだなぁ」
「えへへ~。ありがとうございます!」
「褒めたつもりは、なかったんだがな……」
ショタはゴリの隣にある椅子に座り、伸びをする。ショタからは、ショタのものではない体臭がして、ゴリは思わず笑みを浮かべた。
「お前さんは凄いな……」
自分の仕事に、責任を持っている。そんなショタが、眩しく思えた。
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