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第14話【ショタ(後編)夕方 上】
マグロに乱暴なことをされたのは、初めてだった。いつだってマグロはショタに優しく、慈愛に満ちた彼氏だったのだ。
なのに、突然どうしてあんなことをしてきたのか……ショタには、考えても分からなかった。
ショタはぼんやりと、会議室の天井を眺める。その会議室は、ショタが処理課の人に性処理の依頼をして……指定した場所だった。
ふと、ショタのものではない声が、会議室に響く。
「マグロと何かあったのか?」
声の主は、ゴリだ。
処理課に性処理を依頼をする時、最も競争率の高いゴリに予約を入れられるかどうか……それは、ショタのちょっとした運試しのようなものだった。
ショタは守銭奴だけれど、セックスが好きなのも事実。リピーターの社員と行うセックスも好きだけれど、ゴリとのセックスは特に、好きだった。
――マグロとのセックスには、敵わないが。
ショタは呆けた顔のまま、ゴリに視線を向ける。
「どうして、そう思うんですか?」
ショタに視線は向けず、ゴリは自身のスーツを正していた。
「さっき……随分と悲しそうに、マグロの話をしていたからな」
それは、セックスの前にショタが呟いた言葉のことを言っているのだろう。
マグロのことを、ショタは一番分かっているつもりだ。現に、今朝もゴリにはマグロの考えが分からなかったけれど、ショタには分かっていた。
だからこそ……トイレでマグロが何をしたかったのか、分からないのが悔しい。
ショタは一瞬だけ眉を寄せるも、すぐに笑みを浮かべる。
「ヤダ、ゴリ課長! BBセンパイだって、今朝はボク達にラブラブって――」
「その後だろう?」
ネクタイを締めたゴリが、ショタを振り返った。
そこに立っていたゴリは、先程まで肩を落として悩んでいた人物とは、別人のような……頼もしい表情をしている。
ゴリが何かに悩んでいるのは、薄々察している。ゴリは嘘を吐けず、純粋で分かりやすい人なのだ。
そんなゴリに気付かれるなんて……自分も相当分かり易いのかと、ショタは笑いそうになり……考えを、すぐに改めた。
(何で【今日】だって分かったんだろう?)
そう考えて、ショタは笑みを浮かべる。
「えへっ。ゴリ課長、お父さんみたいですね」
「そうか?」
「だって、まるで本人から聴いたみたいに的確なんですもん~」
ショタの言葉に、ゴリは表情を強張らせた。
――それは、図星を突かれたと……言っているようなものだ。
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