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第17話【BB(前編)正午 上】

 処理課の中で、最も淫乱なのが……実は、BBだ。  事務課と営業課の人間は、処理課一のセックス好きを、ショタだと思っている。それは、処理課の職員全員が知っていた。  ――そして、それが間違いだということも……処理課の職員だけが、知っている。  依頼を終えたばかりのBBは、事務課の事務所から出ると、通路にある窓から外を眺めた。  夏の日差しが眩しくて、腰まで伸びた長い桔梗色の髪を揺らしながら、BBは目を細める。  セックスに耽っていたBBは正午になったというのに、自分が昼飯を食べていないことを思い出し、外で何かを買ってこようと歩き出す。 (どいつもこいつも……大した差があらへんなぁ……)  処理課の職員に付いているニックネームは、全てショタが決めた。  【BB】というニックネーム……理由は、至って単純なものだ。 『ビッチすぎるんで、ビッチの二乗みたいな感じでいいんじゃないですか?』  それが、BBの由来。  外に向かう途中、BBは同じ課の職員を見掛け……声を掛ける。 「『まぐろ』ちゃんやん、こんにちは」  BBが見掛けたのは、マグロだった。  マグロはBBの呼び声に気付き、ゆっくりと近付く。  マグロは必要以上――必要最低限も喋らない、寡黙な青年だ。表情も変えず、それでいて整った容姿のマグロは、まるで芸術品のように見える。  そんなマグロの考えていることは、BBにはよく分からない。マグロの考えを察することができるのは、恐らく世界で一人……恋人の、ショタだけだろう。  マグロはBBの前まで近付き、小さくお辞儀をする。BBもつられて、頭を下げてみた。  ――しかし、会話が生まれない。  もとより、BBにはゴリのようなコミュニケーション能力が無かった。物怖じしない性格ではあるが、人と関わるのが大好き……というわけでもない。  つまり、今ここでマグロを引き留めたことには……何の意味も無かったのだ。  しかし、引き留めたのはBBの方なのだから、会話を模索しなくてはいけない。妙な使命感が、BBを襲う。  ――だが、意外にも口を開いたのは……マグロの方だった。 「BB、さん……あの、訊きたいことが……あるん、ですけど……っ」  マグロの声を聞いたのは、久し振りだ。BBは驚いて、自分より若干背の高いマグロを見上げる。 「な、何……っ?」  裏返りそうになりながらも、BBは言葉を紡ぐ。  マグロはBBと目を合わせず、落ち着き無く視線を彷徨わせた。 「……ゴリ、課長と……依頼、とかで……その、セックス……したこと、ありますか?」 「……え?」  マグロの問いは、意外なものだった。

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