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第20話【BB(後編)夜 上】

 依頼を全て終えたBBは、階段を使って五階を目指していた。普段なら、エレベーターで処理課の事務所へ向かうけれど……階段を使って、上がってみたくなったのだ。  しかし……セックスとは違う疲労感に、BBは肩で息をする。  四階から五階に上がる前、少し休憩をしようと足を止めると……騒がしい足音が聞こえてきた。  ――ショタが、全速力で走ってきたのだ。 「「うわっ!」」  出会いがしらに、二人は声をあげる。ショタはBBの前で立ち止まり、BBはそんなショタを見下ろす。 「どないしたん……依頼?」 「ちが……っ、マグロクンにっ」 「『まぐろ』ちゃん?」  BBはふと、正午に会ったマグロを思い出した。  ショタに対して、自分の意見を言えなかったマグロ……ショタの慌てようを見ると、何かがあったのかもしれないと、BBは直感的に気付く。 「あっ、課長が! ボクはマグロクンですけど! あの!」  ショタはBBを見上げて、慌てたように何かを訴えている。  全く要領を得ないショタを見下ろして、BBは困ったように笑った。 「何? よう分からんわ」  ショタは一度、深呼吸をする。すると少し落ち着いたのか、もう一度顔を上げて、BBを見た。 「ゴリ課長、何かに悩んでますから! きっと、処理課の事務所に居ると思います!」  ショタはBBに頭を下げると、そのまま階段を下っていく。  そんなショタを見送って、BBは上階を見上げる。  ――気付けば、疲れなんて消えていた。  処理課の事務所に戻ると、職員が一人だけ、席に座っている。その職員は、BBの来訪に気付き、笑みを浮かべた。 「あぁ、BBか……今日も、お疲れさん」  そこに居たのは、ゴリだ。笑みこそ浮かべているけれど、ゴリの表情はどこか浮かない。  BBはゴリの隣に立つと、何の前触れも無く……キスをした。  ゴリの目が、驚きで見開かれる。 「『しゃわぁ』浴びよ?」  ゴリの手を引き、椅子から立ち上がらせるBBを、ゴリは不思議そうに見下ろした。  ゴリが悩んでいるのは、ショタに言われなくたって、BBは知っている。それでも、問い質そうと思わなかったのは……ゴリが自分から話してくれるのを、待っていたからだ。  ――けれどBBは、もう……待てなかった。 「僕、君が何かに悩んでるの……知っとるよ」  ゴリの手を引きながら、シャワー室へと向かうBBは、何てことない雑談のように話し出す。 「幻滅なんかせぇへん。僕は、君が好きや」  幻滅されたくないから、マグロもゴリも……相談すべき相手に、何も言えない。  なら、その不安要素を取り除いたら……自分を頼ってくれるのではないか。  実際問題……マグロの言っていることが、必ずしも正しいわけではないだろう。ゴリが一人で抱え込んでいるのは、別の理由かもしれない……それは、分かっている。  それでもBBは、藁にも縋る思いだった。

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