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第23話【マグロ(前編)昼過ぎ 上】

 処理課の中で、唯一タチとネコを両立できる職員……それが、マグロだ。  細身ながらも引き締まった体、無表情で禁欲的な彼への依頼は、少なくない。  マグロのサービスは、丁寧なことが売りだ。人と関わるのは苦手だが、思いやりはある。依頼者一人一人のことを思い、まるで恋人にするかのようなサービスを提供するのだ。  いつも冷静沈着で、言葉数こそ少ないけれど優しい……それが、普段のマグロだ。  ――そんなマグロは、今日、初めて自分の感情を抑えられなかった。  ショタに対して乱暴なことをしたのは……今日が、初めてだ。激しい自己嫌悪に、マグロは深い溜め息を吐く。  苛立たしげに、派手な色の頭を掻きむしる。それでも気が晴れないマグロは、何の意味も無いのに壁を蹴りつけた。  全く治まらない苛立ちから、マグロは頭を抱えて、その場にしゃがみこむ。 (あんなこと、したくなかったのに……ッ)  快楽によって流す涙は、何度も見たことがある。けれど、傷付いて流す涙を……マグロは、見てしまった。そしてそんな涙を、ショタに流させたのは……自分自身だ。その事実が、マグロを苛む。  マグロが処理課に入ったのは、ショタがいたからだった。  マグロは高校を卒業後、ここではない別の職場に勤務していたが……生まれつき人との関わり合いが苦手だったせいで、人間関係のトラブルを起こしてしまい、退社。  そんなマグロを処理課に誘ったのは……他でもない、ショタだった。マグロはショタの誘いに応じ、処理課職員として入社したのだ。  小さくて可愛くて、何よりも大切で、何よりも失いたくないショタを、マグロは真剣に愛している。  けれど、マグロには一つ……分からないことがあった。  ――業務として、ショタが自分の体をマグロに売る行為が、理解できなかったのだ。  恋人としてのセックスを、ショタとマグロは毎日二回、約束している。マグロはそれに満足していたし、ショタもそうなんだと……思っていた。  けれど、最近のショタは違うように見える。  処理課の賃金計算方法を逆手に取り、ショタは効率よく給料を発生させた。マグロに自身を売るのは、ずる賢いけれど正当な方法ではある。  だが、その行為が……マグロには、ただただ苦痛だった。  そしてそれを、ショタに伝えられない自分が、情けなくて仕方なかったのだ。

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