26 / 29

第26話【マグロ(後編)夜 上】

 一日に二回のセックス……それはマグロとショタが二人で決めた、恋人としての約束。マグロはその時間が、好きだった。  朝と夜、ショタのことを恋人として独占できるその時間は、まるでデートのようだ。待ち合わせ場所を決めて、ショタを待つ時間が……好きだった。  マグロは終業時間を過ぎてから、ショタがやって来るのを……二階の非常階段の先にある、非常扉の前で待つ。  けれど……今日は来てくれるのか、自信が無かった。  驚愕の瞳で自分を見上げ、涙でくしゃくしゃになった顔を、マグロは今でも憶えている。  それでもマグロは、ショタを待つことしかできなかった。  ショタに初めて、自分の言葉で気持ちを告白した場所で、マグロは目を閉じる。謝罪と、自分の考えをどう伝えようか……考えながら。  すると、慌ただしい足音が聞こえてきた。  マグロは目を開き、階段へ視線を向ける。  そこから現れたのは……会いたくて仕方のなかった、小柄な恋人だ。 「はぁ、はぁっ! マ、マグロクン……っ!」  汗を流し、衣服の乱れたショタを見て、マグロは表情を変えないけれど、内心では驚いていた。  膝に手を付き、必死に呼吸を整えようとしているショタへ、近付く。  ショタは下を向いたまま、声を発する。 「違うから!」  突然伝えられた否定の言葉に、マグロは内心戸惑う。『何が』と、口から出そうになった。  ショタは顔を上げて、マグロを見上げる。 「ボクは、守銭奴だけど! でも、マグロクンとの依頼は……そう思われるように接してたけど、でも、違うの!」  ショタの顔は、走ってきたからなのか……赤くなっていた。 「マグロクンとは、お小遣い稼ぎのつもりでエッチしたことない!」  マグロにとって、信じ難い言葉だ。  守銭奴のショタが自分に依頼をさせたのは、給料を上げる為……マグロはずっと、そう思っていた。  マグロの考えとは真逆の言葉に、マグロは瞳を揺らす。  ショタは真っ赤な顔をしたままマグロを見上げ、叫ぶ。 「もっとイチャイチャしたいって、言えなかっただけから!」  ショタの叫びに思わず、マグロはバランスを崩し、壁に背を預ける。  依頼をするようお願いしてきたのは……ショタなりの、不器用な愛情表現だったのだ。

ともだちにシェアしよう!