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 約束の金曜日は残業するほどの仕事量もなく、水島は午後七時には風見と共に職場を出た。  会社の最寄り駅から数駅離れ、水嶋の自宅からも近い駅に降り立つ。  風見に案内された店は、隠れ家的な雰囲気の店構えで路地裏に面していた。  店内に入ると数人の客がテーブルやカウンターに座っていたが、金曜日にしては混み合ってはいない。  静かな店内の奥にあるテーブル席に腰を落ち着けると、風見が早速メニューを水嶋に手渡してくる。  水島は礼を言って受け取ると、ざっと目を通す。  風見が言っていた通り、女性が好みそうなカクテルの種類が豊富だった。  それとなく店内に視線を向けると女性客が多いことにも気づく。男二人というのは自分たちだけのようで、少し落ち着かない気持ちで水嶋はメニューを睨んだ。 「水嶋さん、何にします?」 「えっ……あ、そうだなぁ……」  いつもは周囲に合わせ生ビールにするところだが、この場では逆に浮いてしまいそうだった。かといって、自分の好きなカクテルは男にしては甘ったるいものばかりだった。 「一杯目ですし、カルアミルクとかどうですか?」  水嶋は驚いて顔を上げる。どの店に行っても飲むほどに好きなカクテルだった。 「俺もそれにしようかなって、思っているんですけど」 「でも……あんまり甘いのを好まないなら、マティーニとかモスコミュールみたいに少し辛口のもあるけど」  やんわりと水嶋が別の物を進めるも、風見は首を横に振ってしまう。 「水嶋さんが嫌じゃなければこれで良いです」  そう言われてしまえば「じゃあ、そうしよう」と頷くしかない。  風見は店員を呼ぶとカルアミルクと軽食を数種類注文していく。その様子を眺めながら、水嶋は落ち着かない気持ちを持て余していた。  いっときは風見の指導をしていたとはいえ、今では水嶋の手助けなど不要なぐらいに優秀な人材となっている。そんな雲の上の存在になりつつある部下とこうしてサシで飲むのは、なんだか居たたまれなくもあった。

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