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 そろそろ切り上げないと帰れなくなりそうだと、水嶋は視線を腕時計に落とす。とうに十一時を過ぎていた。  いつもなら好きではないビールを飲み、さして楽しくない会話に時間が経つのを気にするばかりだった。  だが今日は違う。気づいたら時間があっという間に過ぎていた。  こんなんだったら、誘いにもっと乗れば良かったとさえ思えてくる。それに懸念していたことも起きてはいない。  ホッと胸を撫で下ろし、「そろそろ帰ろう」と言って、水嶋は腰をあげる。その瞬間、足に力が入らず慌ててテーブルに手をつく。 「大丈夫ですか? 結構飲まれましたからね」  そう言って、慌てて風見が脇を支えてくる。ぎょっとしたが、さすがに振り払うわけにもいかない。大丈夫だからと言って、それとなく腕から逃れた。  何とか支払いを済ませると店を出る。初夏の生ぬるい風を感じながら、ふらつく足取りのまま駅へと向かう。 「タクシーにしましょう。電車内で気分が悪くなったら困りますよ」 「……そうだな」  風見の提案に素直に従うことにする。こんなに酔ったのは初めてだった。今すぐにでも地べたに座り込みたいと思うほどに、足が震えて吐き気もこみ上げる。 「家まで送ります」  途中の道端に耐えきれずに嘔吐した水嶋に、コンビニで買った水を手渡しながら風見が言った。 「その必要はないから。自力で帰れる」 「そういうわけにはいきませんから」 「大丈夫だ。僕は少しここで休んでから駅に行く。君は終電も近いだろうから、先に帰ってくれ」  風見に帰るように促すと、水嶋は植え込みの石の部分に腰を下す。重たい頭を下げ、目を瞑って手のひらに染み渡る冷たいボトルの感触に意識を向けた。眠気が襲いかかり、何度か意識が飛びそうになる。

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