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「きっと君には理解できないと思うけど、僕は凄く楽になった。でも総務から聞かれたときには、さすがに本当のことを言ったけどね」  圧力に耐えきれなくて吐いた嘘だと言ったら、総務からは呆れられもした。それでもプライバシーの観点からか、他の従業員に漏れることはなかった。 「なんで僕が既婚者じゃないって分かったか知らないけど――騙してて悪かった」  水嶋はそう言って、話を締めくくる。街灯に照らされ鈍く光る指輪から視線を風見に移すと、剣呑とした表情の風見がじっと水嶋を見つめていた。  やはり軽蔑しているのだろう。自分が信じていた上司が、周りからなんやかんや言われたぐらいで指輪や弁当までこさえて会社で平然と過ごしていたのだから。 「水嶋さん、なにか誤解していませんか」 「えっ?」  今まで黙っていた風見が発した言葉の意味がわからず、水嶋は頓狂な声を上げた。 「俺は別に嘘をついていることを責めているわけじゃないんです。なんで俺にまで隠す必要があるんですか? それに前に比べて、食事にも飲みにも行ってくれないじゃないですか」 「……それは」 「俺のこと、避けてたんじゃないんですか」 「……避けてなんかないよ」  風見の指摘に酷く狼狽え、言葉に詰まってしまう。  新人時代から風見を傍で指導していくうちに、意識下の中で好意が芽生えてきてしまっていたことは否定できないことだった。  上辺だけは何とか上司部下の関係性を保ってはきていたが、ふとした拍子に恋愛感情が湧き上がりそうになってしまう。でも風見は高嶺の花だ。女性社員と仲よさげに話している様子からして、ノンケの可能性が圧倒的に高い。  一線引くのが一番だった。それに諦めもあってか、自然な距離感で接してこられたはずだった。 「最初の頃に比べて、俺のこと見なくなりましたよね。話する時も、ずっと指輪ばかりいじってる。それって、自分を抑えようとしているからじゃないんですか」  風見の視線が水嶋の指先に向けられる。指摘され、水嶋は慌てて指の動きを止めた。冷たい指輪の感触が指先に残る。

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