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「俺のこと好きなんですよね。違いますか?」
風見の問いに愕然とし、言葉を失う。
初夏の生暖かな湿った風が頬を撫でていくにも関わらず、冷や汗が止まらない。早く返事をしなければ、無言を肯定とみなされてしまう。頭の中で逡巡するも、口から言葉を発することができない。
「好きならどうして、俺の好意に気づいてくれないんですか?」
突拍子もない言葉に、水嶋は絶句した。
「水嶋さん、バーの店員やってたなら気づくと思ったんですけど」
そう言いつつ風見は綺麗な眉を下げ、目元を伏せている。まるで期待はずれでがっかりだといった様子だ。
「何を飲んだか覚えてますか?」
風見に聞かれ、訝しく思いつつも記憶を手繰る。
最初はカルアミルク。その後、テキーラサンライズ、セックスオンザビーチ、ブラックルシアン――他にも数種類のカクテルを飲んでいるがどれも、甘い味わいにしては度数が高いものばかりだった。
そこで水嶋ははっとして目を見開く。
――レディーキラーカクテル
甘い口当たりで飲みやすいが故に、女性が男性に促されるまま飲んでしまう。味や見た目に反して度数が高く、酔いやすい。要注意カクテルだ。
「やっと気づいてくれたみたいですね」
そう言って風見が笑みを浮かべている。
「でも……僕は男だし、まさかそんな……」
「そんなこと関係ないです。水嶋さんが俺に嘘ばかりつくからいけないんですよ」
責めるような口調には、いつもの従順で優秀な部下の顔はどこにもない。
「部屋はどれですか? 水嶋さん」
風見がゆっくり距離を詰める。その目はバーでよく目にしていた獲物を狙う男の目だ。
酔いはとっくに覚めている。ここで拒まなければ、今まで通りの関係には戻れないだろう。わかっていても体が動かない。薄情にも期待に体が震えていた。
直ぐ目の前に風見が立つ。やや見下ろされる形で視線が絡む。
冷たくも甘やかな視線に捕らわれ、水嶋はゆっくりと口を開いた。
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