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 風見は何が好きなのか。何年も一緒に仕事をし、食事にも行っていたのに意外にも分からなかった。  何が食べたいかと聞くと彼はいつも「水嶋さんが食べたいもので」と言っていたからだ。  仕事面の風見の姿は良く知っていても、彼のプライベートな面は何も知らない。そのことに気づきにわかに胸が痛む。  気を取り直し、サンドイッチとポトフを作ることに決めて準備に取りかかる。野菜を切って煮込んでいる間に、サンドイッチの用意をしていく。 「良い匂いがしますね」  背後から突然声を掛けられ、水嶋は思わず驚いて振り返る。  すぐ近くに風見が立っていた。石鹸の香りが立ちこめている。 「水嶋さんの手料理がちゃんと食べれるなんて嬉しいです」 「もう少しで出来るから向こうで待ってて」  そう言って気まずさを誤魔化すように、水嶋は手元のパンに視線を戻す。この部屋に人がいるのは何年も前に別れた恋人以来で、どうにも落ち着かなかった。 「手伝いますよ」  水嶋の言葉には従わず、風見が横に立つ。  仕方なく風見に皿の準備を頼む。仕事以外で指示を出すのは、なんだか不思議な気分にさせられた。 「今日は指輪はしていないんですね」  皿をシンクに置きながら、風見の視線が水嶋の手元に向けられる。 「休みの日はする必要がないから」  パンにレタスやキュウリ、ハムを挟みながら水嶋は苦笑を漏らす。 「指輪は前の恋人から貰ったやつですか?」 「……うん、まぁね」  曖昧な返事で答える。あまり思い出したくない記憶だった。  五年ほど前に付き合っていた恋人は、ずっとそばにいて欲しいと言って水嶋に指輪を渡してきた。にもかかわらず、ある日突然、女性と結婚すると切り出された。親の重圧に耐えられないからと見合いした相手との婚姻だという。  そんな話は寝耳に水だった。つい最近まで、しつこいぐらいに好きだと彼は言っていたのだから。  何よりショックだったのは、彼は関係を続けたいと言ってきたことだ。結婚すると聞いて愕然としたうえに、彼の自分勝手な言い分にはさすがの水嶋も憤った。  別れはしたものの、未練が捨てきれずに指輪を持ったままでいた。自分で指輪を買うのはなんだか居たたまれなかったこともあって、それをつけて現在にまで至ってしまっていた。

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