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 水嶋の予想に反して、会社での風見は今まで通りに既婚者の上司として接してきた。変わり身の早さに拍子抜けしたが、それでもまれに心臓が打ち出すような甘い視線を向けてくる。内心ではハラハラしつつも、水嶋はどこか優越感すら感じていた。  仕事が早く終われば、一緒に食事に出かけて水嶋の家でセックスした。休みの日になれば、風見が泊まりがけで来てくれることもある。  連絡もまめで、毎日のようにメールが来ていた。水嶋が返事をし忘れると、心配して電話までしてくる。少し過保護にも思えるが、それでも面倒くさいとは思えなかった。それどころか嬉しいとさえ思えてしまう。  一向に覚めることのない幸福な夢。  気付けば水嶋はすっかり風見に夢中になっていた。  社内でも風見が求めてくれば水嶋は素直に体を差し出した。  最初こそはバレるんじゃないかと恐れもあったが、それすらも風見と触れ合いたいという欲求が勝ってしまう。同時に捨てられたくないという不安もあったのかもしれない。  交際して半年。季節はすっかり冬になっていた。年末年始に向けて、今年の挨拶回りに各自が奔走している時期でもある。  水嶋も例に漏れず、休みを返上して挨拶回りに奔走していた。  年末年始は実家に帰らなければいけない。毎年の義務を思い出し憂鬱な気分になる。  次男である水嶋には兄がいて、その兄は結婚していた。これでうるさく言われないと思っていたが、予想に反して「あんたも早く結婚しなさい」と母親から帰るたびに小言を言われ続けていた。  本当だったら帰りたくない。願う事なら風見と一緒に過ごしたかった。  取り引き先からの帰り道。鮮やかなネオン彩られた道を駅に向かって歩きながら、水嶋は溜息を吐く。  店の立ち並ぶ通りで、ジュエリーショップが目に止まる。店内には幸せそうな表情で、指輪 を品定めしているカップルで賑わいを見せていた。  そこで水嶋は咄嗟に足を止めた。  その中に一際目つ男の姿に目が吸い寄せられる。  風見だった。  愕然として水嶋はディスプレイに視線を落とす風見の横顔を見つめた。  その隣には満面の笑みを浮かべた女性が立っている。見覚えのある姿は総務課の倉橋だった。彼女は確か風見の同期だったはずだ。  美人と評判の彼女は立っているだけで華がある。腕こそ組んではいないが、親しげな様子はガラス越しにも伝わってきた。

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