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水嶋はふっと笑う。当たり前の光景を目にして、心を乱すのは間違っている。
胸の痛みを無視して、水嶋はその場を静かに立ち去った。
嘘をついている自分が、嘘をついた彼を責めることはできない。それに心のどこかで、いつかはこうなるという予感が拭えずにいたのも確かだった。
会社に戻ると水嶋と同様に、休み返上で仕事をしている人間が数人いた。
「お疲れさま。休みなのに大変だな」
デスクについてぼんやりとパソコンの画面を見ていると、背後から声をかけられ振り返る。
水嶋の同期で総務課の勝村だった。その目線の先が薬指に向けられている。
「お前も大変だな」
「そうかなぁ」
何処か哀れんだ目で見られ、居た堪れなさから水嶋は肩を竦める。
「歳を重ねれば重ねるだけ、面倒なことばかり増えるよな」
そう言って勝村は深い溜息を吐いた。
「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そう口にして、水嶋は躊躇った。
聞く必要はない。頭の中で声がする。確証を得たところで、余計に惨めになるだけだからとーー
「なんだ?」
なかなか話出さない水嶋に痺れを切らしたのか、訝しげな表情で勝村が空いている風見の席に腰掛ける。
逃げ場を失い、水嶋は諦めて口を開く。
「いや……総務課の倉橋さんと風見くんって付き合っているとか聞いたことあるかと思って」
言葉を濁し、水嶋は指輪に触れる。
「珍しいな……水嶋がそんなこと聞いてくるだなんて」
「深い意味はないんだ。ただ、一緒にいるところをたまたま見たからさ」
水嶋はさっき見たジュエリーショップにいた二人の様子を話していく。
「あーなるほどね」
納得した様子で勝村が頷く。
「ついこないだ、倉橋が言ってたんだ。恋人と結婚指輪を買いに行く予定だって。まさか相手は水嶋だったとはな」
疑惑が確証に変わる。血の気が引く思いがした。
やっぱり自分は所詮、風見は結婚するまでの繋ぎでしか過ぎなかったのだ。毎日連絡をくれたり、家に頻繁に来ていたのも、自分がするのと同じで周到に隠し通す為の行為に過ぎなかったのだろう。
「なんだ、浮かない顔して……まさか、お前も倉橋のことを狙っていたのか」
「……ううん。そういうわけじゃないんだ」
無理やり笑みを浮かべて、水嶋は首を横に振る。
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