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「でも水嶋のほうが早くからアタックしてたら、もしかした本当にしてたかもしれないぞ」  そう言って、目線は水嶋の指輪へと向けられる。  本当は結婚していないことを勝村は知っている。本当の理由を話していなからこそ、結婚しないのは単に相手がいないだけだと思っているのだろう。 「僕には無理だよ」  倉橋は美人なだけでなく、明るくて人懐っこい性格だった。そのせいか社内だけでなく、他社からも人気が高い。彼女のお茶を入れてほしいという先方もいるぐらいだ。  でも風見だったら――さっき見たしっくりとくる光景を思い出す。 「まぁーそう落ち込むなよ。ショックなのはお前だけじゃないさ」  勝村が励ますように言った。見当違いだったが、水嶋はそうだなと呟く。 「それにしても水嶋かー。誰もあいつには敵わないよ。天は二物を与えずって言うけど、絶対ウソだな」  一人で憤る勝村を尻目に、水嶋は少しだけ慰められたように思えた。自分みたいな人間が少しの間とはいえ、手の届かないような男と一時の夢を見れたのだから。 「そういえば水嶋、最近風見と一緒に帰ったりしてるよな。何も聞いてないのか?」 「特には聞いてない」 「まぁー仲が良いのは良いけど、結婚するんだったらあんまり連れ回すなよ。上司なんだから、そのへんお前が気遣ってやらないと」  勝村の指摘はもっともだった。 「そうだね。これからは控えるようにするよ」  水嶋はそう言って頷いた。  嘘をつくことには慣れている。だからきっと問題ない。  風見が飽きるまで、気づいていないふりをして距離を置く。それが二人にとって、最善の別れ方だ。  自分はそれまで幸せな夢を見て、彼は後腐れなく彼女の元へといく。  かつて別れた恋人を思い出す。  指輪に触れた指先は酷く震えていた。

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