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「まだキスだけなのに、イッちゃったんですか」
「あっ、さ、触るな」
濡れた布越しに扱かれ、ぬるりとした感触が気持ち悪い。抗議の声を物ともせず、風見は嫌がらせするように手を動かしている。開いている手がシャツを捲り、胸の突起を摘まむ。達したばかりの体には行き過ぎた刺激だった。再び熱が下肢にわだかまる。
「っん……おねがいだから……やめてっ」
懇願するような目を向けるも、風見は口元を緩めて水嶋を見下ろす。
「なんでこんなに敏感なんですか。誰かに仕込まれでもしたんですか」
愕然として水嶋は首を横に振る。
「俺のこと避けてたのも、他に男ができたからですか。水嶋さん、優しいから別れは言わずに、距離を置こうとしてたんじゃないんですか」
風見の勝手な言い分に、自然と涙が溢れ出す。否定の言葉を口にしようにも、喉が詰まったように苦しく、ただ首を横に振ることしかできない。
自分はずっと、風見だけが好きだった。二人の姿を見るまでは、このままずっと幸せな夢を見続けられるかもしれないとさえ思っていたのだ。悔しさに嗚咽まで込み上げてくる。
「なんで泣くんですか。そんなに俺に触られるのが嫌なんですか」
見当違いも甚だしい。怒りが込み上げ、水嶋は初めて風見を睨んだ。
「君は――ひどい男だな」
風見の手の動きがピタリと止まる。
「裏切ったのは君の方じゃないか」
声が醜く震えていた。もう後戻りはできない。覚悟を決め、水嶋は無表情の風見を見返し口を開く。
「僕は見たんだ。君が総務の倉橋さんとジュエリーショップで一緒にいるところを」
水嶋は核心を突く。それでも風見の表情は変わらない。
「結婚するじゃないのか? だったらなんで僕を抱いたんだ。結婚しているって嘘を吐いていたからなのか。僕だったら、他の誰にも言えないだろうって思ったからなのか」
惨めさが込み上げ、涙が目の縁を覆う。瞬きする度に大粒の涙が零れた。
反省しなかった自分も悪い。叶うはずの恋が実ったと浮かれすぎてしまっていた。前の恋人で痛い目を見ていたはずなのに。
揺らぐ視界を拭い、黙り込んでいる風見を見上げる。途端に水嶋は唖然とした。
風見は笑っていた。
それも酷く幸せそうに――慈しむような目を水嶋に向けている。
一体、何を考えているのか分からず、口をぽっかりと開けて水嶋は風見を見つめる。
「嬉しいです」
「えっ……」
呆気に取られている水嶋を風見は力強く抱きしめた。
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