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「でも出来なかった。ずっと既婚者って嘘はつけてたのに――君のことだからかな」 「俺だから?」 「そう。一時でも君の傍にいれるなら、それでも良いかなって思ってたけど――やっぱり難しかった。きっと、君を凄く好きだからなんだと思う」  照れくさくなり、視線を床に落とす。 「水嶋さん」  柔らかな感触を指に感じ、視線を向ける。風見が指先に口づけをしていた。 「俺はずっと水嶋さんだけを見てきたんです。水嶋さんが思っている以上に、俺は貴方を愛していますよ」 「どうして……そんなにまで」  そこまで自分を好きな理由が分からない。風見を好きになるのには魅力などいくらでもある。だが、自分は彼を惹きつけられるような男ではない。 「水嶋さんだけがちゃんと俺と向き合ってくれたからです。新人の頃、まだ役に立たない俺に食事を誘ってくれたり、悩みも聞いてくれたじゃないですか」  恍惚な表情で語る風見に、水嶋は首を捻る。  それは上司として当たり前のことだ。別に自分じゃなくてもいい。  訝しげな水嶋の表情に気づいたのか、風見が困ったような笑みを浮かべる。 「水嶋さんは他の人と違って、自分のミスや恥を晒してまで励ましてくれましたよね。俺の話も飽きずに聞いてくれて。自分の武勇伝ばかり語りたがる奴らとは違う。水嶋さんだけなんです。自分の親ですら、味方なんかしてくれなかった。それどころか話すら聞いてくれなかったんです」  自嘲するような表情に変わり、彼の過去に暗い何かがあったのだと察する。 「それに水嶋さんが俺を見る目がどこか熱を帯びているみたいに見えて、もしかしたら好意を持っているんじゃないかって思ったんです。試しに女性の話をしたら、所々辛そうな顔をしてたのでそうなんだろうと。なのに普通に接してくれて、俺が誘ったらちゃんと食事にも連れて行ってくれましたよね」  風見の問いに居た堪れず、水嶋は俯く。自分はそんなに分かりやすい態度をしていたのだろうか。そうだとしたら結婚していないことも、周囲は気づいているんじゃないのかと憂鬱になった。 「でも結婚したって噂が流れた頃から避けられるようになって、調べてみたら本当は嘘だって分かったんです。ホッとした反面、なんで俺に本当のことを話してくれないんだって、凄く苛立ったんです」  濡れた舌で指を舐められ、ゾクッとした興奮が背筋をかける。 「ぁっ………」  指の先から手の甲まで、ゆっくりと舌が這う。艶やかな視線が向けられ、期待に胸が高鳴る。 「俺、怒ってるんですよ。勝手に自己完結して、俺が浮気しているって思われてたこと」  手首を甘噛みされ、ビクッと体が跳ねた。 「ご、ごめん」 「もう二度と、隠しごとしないでくださいね」 「……わかった」  水嶋がそう言うと噛んでいた場所に軽く唇を落とし、風見が顔を上げる。 「次破ったら許さないですからね」  口元は微笑んでいるように見えるが、目が笑っていない。水嶋が恐怖から頷いた。 「じゃあ、続きしましょうか」  風見は満足そうな笑顔で言った。

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