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会長と俺は会話不足らしい1-2
「西宮は会長と一緒にいて楽しい?」
「楽しいよ。でも、わざわざ恋人相手に一緒にいて楽しいとか言う? 毎日のことなのに会えてよかったとか言う?」
「そんなこと言われたら別れるフラグか死地に向かうみたいだ」
「そうだろ。そういうもんだよね」
牧田と横道は微妙な顔でお互いの顔を見合わせた。
この話題はまだ続くらしい。
「好きだからこそ不安になったり疑ったり考えたり」
「しない」
「してってば! 会長のためにしろよ!!」
「面倒くさすぎる」
親衛隊長を相手にするよりも面倒だ。
自分が感じない感情をわざわざ湧きあがらせるなんて疲労感しか湧かない。
「会長が好きならそのぐらいしろよ」
「好きだからこういう行動をしないとならないっていう前提が意味分からない。人それぞれ違うもんじゃないのか? 会長自身の挙動不審以外にも具体例でもあるの、それ。……元彼の行動パターン?」
俺の指摘が正解なのか二人して下を向いた。
笹峰明頼と元彼は幼なじみだと横道が教えてくれた。
中学の時に風紀委員長が略奪するまでは美形と平凡の顔面偏差値格差カップルとして有名だったらしい。
元彼が笹峰明頼といるのが嫌になった原因の一旦はその扱いだと元彼本人の口から聞いた。
俺も同じ扱いを受けているが事実なので気にならない。
笹峰明頼が大勢に認められ評価されるタイプの美形なのは後姿だけでもわかる。
反対に俺はとても普通だ。見た目を褒められたら服の着こなしへの称賛だろう。
「元彼の話を聞いて嫌な気持ちに」
「面白くはないけど、べつに」
「西宮ってば、冷めすぎ。平凡っぽくオロオロしてくれよ」
「横道は顔だけしか取り柄がなくて会長とは大違い」
「それって、すげー褒めてくれてるんだよね??」
「横道じゃなくて会長を褒めてるけど、……それで嬉しいんだ」
「西宮がちゃんと会長を好きだって会長が知れば喜ぶから、そりゃあ嬉しいよ」
横道の豹変ともいえる態度に必要ない、面倒だと思わず相手を喜ばせるために動くべきなのかもしれないと少しだけ思った。
あれだけ俺への不満に怒り心頭だった横道が「会長の幸せが俺たちの幸せなんだよぉ」と情けなく言って抱きついてくる。
牧田が「横道おねだり甘えモードスイッチオン」と言い出したが無駄な機能すぎるので電源を落とすか返品したい。
「会長にもこの調子でいつも格好良くて素敵で大好きって言えよ!! 言ってくださいお願いします」
へらへらと笑う横道と頼み込むような仕草をする牧田。
こいつらは笹峰明頼のなんなのかと思うところだが「生徒会長」だからなんだろう。
笹峰明頼はみんなの会長だ。
会長の幸せが二人の幸せでもあるんだろう。
でも、俺と会長の会話は基本的に「にゃー」と「べあー」だ。
モノクロでシックな部屋を俺がパンダ扱いをしたのが笹峰明頼のツボにはまったようで中国語のパンダの「熊猫」という表記から俺たちは「にゃー」と「べあー」しか部屋の中でしゃべらない。
ちゃんと「にゃー」と「べあー」だけで意思疎通はできる。
二人だけのときは二人だけにしか通用しないルールの中にいるなんてバカップルでしかないと思う。
十分すぎるほどに仲がいい俺たちに改めて、きちんとした言葉がいるなんて違和感がある。
行き違いが起こっているなら「にゃー」と「べあー」だけで全てを済ませていたツケかもしれない。
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