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恋人はたぶんエッチが好き1-1 会長視点

 兄もその親友も悪く言うと自分の好きなことしかしない人だった。  一つのことにハマるとそればかりになる人種。  俺は自分にその傾向はないと思っていた。  兄が延々と作業をしている姿を見て淋しかった。  だから俺は周囲に気を配り一つのことに没頭しないようにしていた。  これは兄が嫌いだから反面教師にしたわけじゃない。  自分の罪悪感を緩和させるためだ。    マイペースではあっても人の気持ちが分からないわけではない。  兄は兄なりに俺を大切にしてくれていた。   親友と一緒に消えたのは俺の誕生日プレゼントを購入するためだ。  逆に言えばそんな外泊などしなければ兄は何かに巻き込まれて消えることはなかった。  自主的に兄たちが行方不明になったとはどうしても思えない。  何かに理由を求めたくなって俺は自分に原因の一端がある気がした。  まったく関係のない事故なのかもしれないが兄に関する情報がなさ過ぎて判断が出来ない。  珠次と恋人になるまで俺はこの曖昧な罪悪感と当たり前を失ってしまう空虚感に心を軋ませていた。  兄の消息を探すことは珠次が恋人になっても変わらずに続けている。  なんの痕跡も残されていないので調べることができない。  兄のいない時間が過ぎていくばかり。  両親が兄を忘れたようになってしまったのは事態がなんの進展もしないから仕方がなかったのかもしれない。    いつも通りの日常は自分のあずかり知れない場所で急に壊れてしまう。    俺は理由も分からない唐突な兄の行方不明という出来事を消化しきれていない。  考えると吐き気がして無意味に泣きたくなる。  珠次は兄のことを何も知らないのでその話題に一切触れてこない。  周りが気を使ったように「あえて触れない」のとは違う。    ちょっとした切っ掛けから受け答えが「にゃー」と「べあー」だけになったことも俺の心を楽にした。  不安感などの衝動は吐き出したいけれど言葉にならない。  自分の不安定さを年上として隠しておきたい気持ちもある。  余裕を見せたいわけじゃなくても情けなさは隠し通したい。    とりあえず「べあべあ」言っていれば珠次はうなずいたり首をかしげて「にゃー」と返事をしてくれる。  心が浄化されて幸せな気分になる。  どれだけ他人を煩わしく感じていたのかが分かってしまうほど珠次との時間は心が落ち着いた。  兄のことを考える時間が減ってもふとした瞬間に心がヒリヒリと痛みだす。  自分が目を離した隙に誰かが珠次に何かをするかもしれない。  急に兄が消えたように珠次が消えてしまうかもしれない。  そう思うと怖くてたまらない。  言いようのない不快感。    誰かが俺の頭の中に発泡スチロールを投げ入れてこすり合せているような後を引く気分の悪さ。  鳥肌が立ち絶望に全身が支配される。  叫びだしたい感情は悲しみなのか怒りなのか自分でも分からない。    ただ不安で怖かった。    その気持ちを昇華しようと俺は珠次を抱いた。  西宮珠次はここにいる、そう感じたかった。  愛を確かめ合いたいとかお互いに気持ちよくなりたいとかそんな気持ちじゃない。  どこか逃げるような情けなさを隠すように俺は珠次のぬくもりを求めた。    最初の数回はお互いに勝手がわからず不慣れだったので常識的な範囲だったと思う。    珠次が許してくれるからと俺が調子に乗ったのがいけない。  俺は珠次の首が好きだ。  すこし見上げるようにして珠次は壁掛け時計を見る。  視線だけで振り子を追いかけている姿を斜め後ろから見ていると欲情がとまらない。  隣に座って抱き寄せて動けない状態にして耳の後ろからうなじにキスしていく。    慣れたのかそういうものだと思っているのか俺が首にキスをしていると珠次は俺の下半身をくつろがせてくれる。  珠次の手こきでそのままイクこともあるし、押し倒してソファですることも多い。  ソファでは服を脱がずにずらすだけにしている。  そうすると汗や精液でソファを汚さずに済む。  ぐちゃぐちゃになった服を脱いでベッドで再開したり、一緒にシャワーを浴びに行く。  そういう流れが多い。    どちらにしても俺がケダモノのように珠次を襲う。    俺たちはセックスの時も言葉を交わさない。  シテいいのか聞いてダメだと言われても止まれないので聞かない。    大体の場合の受け答えはベターな時に「べあー」と答えてイヤま時に「にゃー」なことが多い。    セックスの最中に珠次はいつでもにゃーにゃーかわいく啼いているのでよくよく考えると嫌がっているのかもしれない。  抜かずの三発を決められたら嫌に決まっているし、後ろから押しつぶすように体重をかけるやりかたは珠次の身体が痛くなりそうだ。    一緒にシャワーを浴びながら反省しながらも珠次の頭を洗っているとムラムラが止まらない。  エロいことに興味がなくて知らな過ぎた反動なのか俺は珠次に欲情しすぎる。  跡を残さないように珠次のうなじを軽く噛む。  気持ちがいいのか「うにゃ、ぁん」と甘く喘いでくれる珠次に堪らない気持ちになった。  浴室内に反響する珠次の鳴き声。  メスの発情にオスが引っ張られて発情する猫の発情期の仕組みがよくわかる。  あんな風に甘えるように「にゃー」と言われてあらがえるオスなんかいるわけがない。    なんで珠次は俺の子どもを孕まないんだろうと思うほど一夜で中だしをし続けた。  珠次がお腹を壊したり体調不良になったりして俺の部屋に来ない時があるたびに自分のクズさを自覚するが直らない。  変態的な行為を気にしていないように放課後に俺の部屋で夕飯を作ってくれるから安心してしまう。  パンダの刺繍のついたエプロン姿で玄関まで俺を迎えに来てくれる珠次。  かわいすぎてヤバイが年上として生徒の見本になるべき生徒会長として自重しようと思った。  うなじにキスしたくなるので正面から向き合ったり横に並んだりと珠次の後ろに回らないように気を付けた。    夕飯が口に合ったのか聞きたい珠次が俺を見上げて首をかしげて「にゃー」と鳴く。  俺の下半身が反応しないわけがなかった。  おいしいのに味が感じられずに気まずくなった俺に怒るでもない珠次。  箸をおいて「仕方がないにゃー」と言って俺の性器をなでてくれる。  食事どころではなくなるのは当然の成り行きだ。

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