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恋人はきっと俺が好き?1-2

 二人の間で何かがあったのか横道と牧田が階段の上の方で言い争っていた。  巳屋敷が止めに入ろうとしているのが見えた。  危なかったので俺は階段をのぼりながら二人に声をかける。  これは年上であり生徒会長として当たり前のことだ。  部活が終わって下校途中の生徒もすこしずつ集まってきている。  転入生を一目見ようとする人間と仲がいい横道と牧田の言い争いに野次馬根性を出した人間とが寄ってきた。  ケンカ理由は幼なじみ同士特有の理由なき仲違いだろう。  俺も吉武によく怒られている。俺が怒ることがほぼないのでケンカに発展しないが幼なじみなら深い理由がなくても衝突は起こるものだ。    転入生は事前に知らされていたのか横道の名前から自分とこれから暮らすことになる人間だと認識していた。  空気を読まずに自己紹介しながらお互いしか見ていない二人に近寄るために階段を駆けあがる。  言い争いに夢中になっている二人のどちらかの手が転入生の勢いのついて階段をのぼりきった肩に当たる。    転入生は重心がブレて体勢を崩した。階段だということを忘れたのか後ずさり足を踏み外した。  放っておけばよかった。  けれど、俺はとっさに抱きとめてしまった。  何が嫌なのか転入生は俺の腕の中で大人しくしていなかった。  暴れられて踏ん張ることが出来ず俺は階段から一番下まで転がっていった。    コントみたいだと思ったがその弾みで転入生とキスをした。  ネクタイを引っ張られて顔が下向きになった上に転入生が俺の方に顔を突き出したせいだ。  身体や足が地味に痛かったので唇が当たったことはなんとも思っていなかったが、周囲から「キスしてる」「押し倒してる」と聞こえてハッとする。    すぐに起き上がろうとする俺に対してネクタイを引っ張る転入生。  立ち上がれず転入生の上に再び倒れ込む俺。上がる歓声。焦る俺。その下で瞳を潤ませる転入生。地獄だ。    ネクタイを引っ張られているせいで転入生から距離をとれないと思っていたら蹴り飛ばされた。  誰かと思ったら吉武だった。  メチャクチャ怒っているが吉武が怒っているのはよくあることなので気にせず「なんの用だ」と口にする。  身体中が痛いが転入生と離れることが出来た点で吉武キックは俺の助けになった。  髪をかきあげながら骨に異常がないことを確認するために軽く足を動かす。    吉武はどういうつもりなのか責めてきた。  どういうつもりも何も俺のネクタイを引っ張ってくる転入生の頭がおかしいとしか言えない。  俺は階段を踏み外した転入生を支えてやったら暴れられて階段から転がるという不幸に見舞われた。  人に親切にしたのに痛いばかりで良いことがない。  珠次は何も言わず何も聞かず心配そうにした後に打ち身に湿布を貼ってくれる。  風呂は湯船に入らずシャワーだけになって珠次に変な体勢をとらないように目で訴えられるかもしれない。  この場を適当に処理しようとしてしまう気持ちが珠次を思い出してピリッと引き締まる。  珠次におかしなところを見せたくない。  

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